弊紙(WWD JAPAN)の9月29日号で既報したが、名古屋に本社をおくハンドバッグメーカーのエリットが9月22日名古屋地方裁判所に破産申請し、即日認可された。
帝国データバンクによると負債総額は26億円余り。その金額のあまりの少なさに驚き、また民事再生法の申請ではなく、再建をあきらめた自己破産申請であるのも少々意外だった。
業容を見ると、1990年代半ばのピーク時には150億円近い売り上げを誇っていた同社も、最近では30億円も割り込んだようだ。
売り上げがピーク時の半分になると黄色ランプが灯り、3分の一近くになると赤ランプが灯って危険水域に入ると言われているが、すでに5分の一の水準になって、しかも現在の主要ブランドである「ランバン コレクション」「ヴィヴィアン・ウエストウッド」(ウィメンズ)については、2014-15年秋冬シーズンを最後に終了する予定だという。
主要ライセンスブランドが終了になっては、今回の破産申請もやむを得ない決定だった。 エリットの倒産は、いってみれば「ライセンス終了倒産」と呼んでよいだろう。
最近では三陽商会とバーバリーのライセンス終了(2015年春夏が最後)が大きな話題になったが、ライセンスブランドで成長した日本のハンドバッグ業界のライセンスブランド依存もかなりのものだった。
エリットは1939年創業で今年は創業75周年にあたる。名古屋のファッション企業としてはアパレルのタキヒヨー、靴のマドラスと並び代表的な存在だった。
80年代後半から特に「ウンガロ」「ジバンシィ」の2大ライセンスブランドで急成長の波に乗った。しかし「ウンガロ」「ジバンシィ」ともに契約を持続することができなくなってからエリットの業績は低迷の一途を辿った。
オリジナルブランド開発が急務になって、「「モットー」や「メログラーノ」を手掛けたが、いずれもヒットには程遠かった。
今年7月23日にはやはりライセンス(マリ・クレール、49AVジュンコ・シマダ、ジュン・アシダなど)比率の高かったアディロンも自己破産していた(負債総額はなんと2億5000万円だった)。
日本のハンドバッグ業界も大きく様変わりしており、年商ビッグ4と目されるのは、エース、サマンサタバサジャパンリミテッド、クイーポ、ポーターを手掛ける吉田と言った勢力でいずれもオリジナルブランドが主力になっている企業ばかりだ。
ライセンスブランド「サムソナイト」を失ったエースも自社ブランド「プロテカ」の成功で企業としてワンランク上にステージアップしているし、「ベネトン」が主力ブランドだったクイーポもオリジナルブランドの「ゲンテン」が大きく花開いて注目されている。
90年代にライセンスブランドが主力のある大手アパレル企業のマーケティング部長に、「オリジナルブランドの広告もいいですが、ビジュアルのキレイなライセンスブランドの広告を出稿してもらえないか?」と頼んだから、「契約が切れていつなくなるかわからないブランドの広告は、最低限のことしかやらない」と拒絶されたのを覚えているが、それぐらい無骨にオリジナルブランドの知名度アップにつとめていたが、結局はそうした努力の甲斐あって、同社のブランド別売上のベスト3は現在では自社ブランドになっている。
同じ弊紙9月29日号でもうひとつ驚いたのが、スターバックスコーヒー ジャパンの株式の39.52%を保有するサザビーリーグが、米国スターバックス本社にその全持ち株を550億円で売却するというニュース。
これもサザビーリーグが1995年設立以来心血を注いで育てて来た日本のスターバックスの権利を売却するというある意味では残念な事態ではあるのだが、その売却金額550億円には、さすがサザビーリーグだと膝を打った。
19年間にわたる努力に見合うだけの金額だと思ったからだ。
先方がいずれ100%出資にしたいというのを見越してタフな交渉力で主導権を握って動いていないとこういう結果にはならない。見習うべき点が多いのではないか。
こんなに先が読めてタフネゴシエーターのサザビーリーグも、80年代後半から90年代には同社成長の主因になっていた「アニエスベー」のライセンスビジネスを提携先の企業の100%出資日本法人のアニエスベー・サンライズに根こそぎ持っていかれた苦い経験を持っている。
今回のディールにはその経験が生かされたのではないだろうか。これだけの資金があれば、次のビジネスに挑戦するのに十分な金額ではないのだろうか。
(2014.10.20「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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