「windblue」 by MIDIBOX


朝日新聞と集英社は、ニューヨークタイムズ社と業務提携して、来年3月25日に「ティー・ジャパン」(正式名称:T JAPAN The New York Times Style Magazine)を創刊する。

 同誌は、ニューヨークタイムズが毎月1回日曜版に同梱している「ティー・マガジン」(正式名称:The New York Times Style Magazine)の日本版で3月以降は、5月25日、9月25日、11月25日の発行で、朝日新聞の宅配データに基づき、単独で配達される。

The New York Times Style Magazine

The New York Times Style Magazine

 朝日新聞とニューヨークタイムズは長年にわたり業務提携を行っているから「ティー・マガジン」が全米で大人気なのは知っていたはずだが、その日本版に着手することはなかった。

 その後押しをしたのが今回「ティー・ジャパン」の編集長に就任した内田秀美氏だ。同氏は昨年6月まで「シュプール」の編集長を6年間務めた人物。

 現在は集英社のコミュニケ―ション・デザイン室のクリエイティブディレクターとして、長年培ったファッション的知見を活かし同社の雑誌以外のビジネスを開発している。

 すでに三陽商会のブランド「エポカ」のリニューアルに参画するなどの成果をあげている。

 内田氏は「今でも私が一番好きな雑誌は『シュプール』ですが、実は以前から二番目に好きな雑誌は『ティー・マガジン』でした」と創刊発表の席上で語っている。

内田秀美氏

内田秀美氏

 発行形態は宅配形式のフリーマガジンで、発行部数は20万部。

 リリースによれば、「16万部は首都圏の平均年収1500万円以上が占める割合が最も高いエリアに住む朝日新聞読者に配布、2万部を関東・中部・関西に住む開業医に配布、2万部を集英社の公式ファッション通販サイトFLAG SHOPの最優良顧客(年間平均購買額121万円)へ配布する」。

 平均年収1500万円と言えば、都心百貨店がターゲットにしている世帯年収である。言ってみれば、確実に宅配されるダイレクト・マーケティングで、富裕層を狙い撃ちしようということだ。

 すでに読売新聞社傘下の中央公論新社が昨年創刊し、都心で読売新聞に同梱している「マリ・クレール」(年12回発行、部数50万5000部)の集稿が順調に進んでいるのを横目で見て、ライバルの朝日新聞が集英社と組んで始めた新手の富裕層ビジネスと言えるかもしれない。

marie claire誌

marie claire誌

 これがすでに巷に蔓延しているカード会員誌とどこが違うのかと言えば、「ニューヨークタイムズが保証するクオリティ」ということになるのだろう。

 毎号96ページ程度のページ数で、「ティー・マガジン」の翻訳が50%、日本のオリジナル記事が50%の構成。編集部は集英社内に置かれスタッフは4名程度だという。

 「ティー・マガジン」のファッションを始めとしたライフスタイルに関するジャーナリスティックな紙面はすでに定評のあるところで、翻訳部分にはある程度の予想がつくが、これと違和感のない日本オリジナル記事が作れるかどうかは内田編集長の腕の見せどころだろう。

 現在の新聞不況・雑誌不況下で両社には是非協業の成果を期待したい。

 今年前半はフランスの経済学者のトマ・ビケティが書いた「21世紀の資本論」の英語版が発売されて、米国では論争が起きるほどの話題になった。日本語版はみすず書房から12月に発行される予定だ。

 ダイジェストによれば21世紀には富がますます集中するようになり、格差がどんどん広がっていくという内容だが、日本ではすでに週刊誌にまで取り上げられた。

「21世紀の資本論」 トマ・ビケティ

「21世紀の資本論」 トマ・ビケティ

 アメリカほどではないが、一億総中流と言われた日本も着々と格差社会の階段を上っていることだけは間違いない。それに伴いファッションビジネスも大きく変化している。

 特に2008年のリーマン・ショック後に大きな変化を見せたのはラグジュアリー・ブランドのビジネスだ。

 1990年代に急成長を遂げたラグジュアリー・ブランド・ビジネスを支えたのは、日本のキャリア女性たちだったが、最近はその様相を大きく変えている。

 ここ10年ばかりで、ラグジュアリー・ブランドの売り上げの60~70%を占めるハンドバッグの小売価格は2倍程度の水準まで上がっている。

 円安を背景にした度重なる値上げがその主因だが、アベノミクスはそうした流れをさらに助長している。もうキャリア女性が手が出せる水準ではない。

高級手作りバッグ

高級手作りバッグ

 ラグジュアリー・ブランド側も、すでに個数の増加は期待しておらず、高付加価値&高価格が基本戦略になっている。ターゲットは本物の富裕層だ。これは格差社会へ舵を切った日本の社会を反映している。

 富裕層を狙った究極のビジネスとしてWWDジャパン8月25日号P.17で紹介したハースト婦人画報社のイベントがあげられる。

 北海道で開催されている競走馬のセリ市に高級車を始めとしたラグジュアリー・ブランドを誘致してセリ市に集まった超富裕層たちの購買を促そうというユニークな催しだ。

 格差社会で勝ち残った富裕層を狙って、新聞社、出版社の涙ぐましいばかりのチャレンジが続いている。

                

(2014.9.6「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

PAGE TOP


banner Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.