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この5年間、日本のファッション業界の最大関心事として注目を集めて来た「バーバリー/三陽商会 2015年問題」がついに決着した。

 主力の「バーバリーロンドン」については、2015年春夏ものを最後にライセンス契約を終了、「バーバリー・ブルーレーベル」(ウィメンズウェア)及び「バーバリー・ブラックレーベル」(メンズウェア)については、2015年春夏でライセンス契約を終了するが、2015-16年秋冬からは「バーバリー」の名前を冠さずに他のサブブランドを冠し従来のコンセプトを踏襲した3年間のライセンス契約を締結。

 ほぼ予想通りの結果だが、「ブルーレーベル」と「ブラックレーベル」については、とりあえず3年間とはいえバーバリー社の譲歩を引き出した点が注目される。

BURBERRY

 この「バーバリー2015年問題」のそもそもの発端は、バーバリー社が1997年に米国百貨店サックス・フィフス・アベニューの社長だったローズマリー・ブラヴォー社長兼CEOを同社のCEOにスカウトしたことに遡る。

 ブラヴォーCEOは、「ジル・サンダー」のアシスタントデザイナーだったロベルト・メニケッティをクリエイティブ・ディレクターに迎え、「バーバリー」ブランドの再生に着手した。その基本構想は、プレミアム・アパレルブランドだった「バーバリー」をラグジュアリー・ブランドへと転換させることだった。

 ちなみに同時期、同様のブランド再生に挑んだのが、「グッチ」だった。グッチ社は、やはり米国高級専門店のバーグドルフ・グッドマンのファッションディレクターのドーン・メローを1989年にCEOに迎え再生に着手。メローはその後1994年にトム・フォードをクリエイティブ・ディレクター起用して「グッチ」を完全復活させた。

 さらに「ルイ・ヴィトン」もラゲージ&ハンドバッグ・ブランドからの飛躍を目指して、1997年にマーク・ジェイコブスをアーティスティック・ディレクターに起用して1998年10月にパリコレに初参加。その後グローバル&トータルなラグジュアリー・ブランドのトップブランドに君臨するようになったのは周知の通りだ。

マーク・ジェイコブス

 振り返ってみれば、90年代後半は現在のラグジュアリー・ブランドがその方向性を明らかにしたディケイドだった。

 さて「バーバリー」の話題に戻れば、そのプレミアム・アパレルブランドからラグジュアリー・ブランドへの転換はまだ道半ばということができる。そのネックのひとつが日本におけるライセンス契約であった。

 ラグジュアリー・ブランドとは、歴史・伝統に基づいたアーカイブやレジェンド(伝説)を数多く有し、またそのブランドが誕生した国や都市の文化をベースにしたブランドのアトモスフィアを漂わせ、またクラフトマンシップをベースにした本国生産・企画を基本にしたものである。こうしたラグジュアリー・ブランドが本来ライセンス生産を許すはずはない。

 では2000年にスペインでのライセンス契約を終了して以来、日本でのライセンス契約を継続して来た理由は何か。

三陽商会/BURBERRY

 日本での「ラルフ ローレン」「ルイ・ヴィトン」と並んでビッグスリーを形成していたバーバリー人気を背景にした高額のロイヤリティ収入は、魅力的だった。

 三陽商会が支払っていたロイヤリティはピーク時には100億円を超えていたという。しかし、今年3月末決算でバーバリー社の売上高は3961億円、)税引き前利益は754億円。9年前の2005年の決算からみれば売り上げで3.25倍、利益で2,86倍になった。

 飛躍的な成長を遂げており、三陽商会からのロイヤリティ(70億~80億円程度)は、2005年当時はその消滅がバーバリー社にとっては経営的に大きな問題であったが、現在では、さほどの影響を及ぼさないという経営判断がなされた。

 「バーバリー」のトップラインである「バーバリー プローサム」は2013年9月からロンドンにコレクション会場を移し、ロンドン発祥ブランドとしてのアピールを強化、さらにアンジェラ・アーレントに代わって、クリエイティブ・ディレクターのクリストファー・ベイリーがCEOに就任するなど、ラグジュアリー・ブランドとしての陣容を整えつつある。

クリストファー・ベイリー

 今回の三陽商会とのライセンス契約問題決着もそうした経営の一環と捉えるべきだろう。

 欧米ブランドとのライセンス契約は日本のファッション市場の拡大に大きな貢献を果たして来たが、次々に本国企業が日本法人を設立して「直轄」するビジネスが主流になり、そのためにライセンス契約を打ち切られて苦境に陥って来た日本企業は枚挙に暇がない。「バーバリー」はそうしたライセンス終結問題の最後の「大物」だった。

 もちろん高額のロイヤリティを支払う必要もなくなって、逆にその企業の企画力が発揮されて、苦境を脱して、独立自尊の企業体質を確立した企業もある。

 三陽商会のモノづくりは従来から定評のあるところだ。これをチャンスととらえて一層の飛躍を遂げ、日本のアパレル企業の底力を世界に見せてもらいたい。

                

(2014.6.8「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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