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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

 

<soul-107> パンジーの根の先

「ひいおじいちゃんは絶対悪くないけど、
 結構前から倉苑は、変な言葉使う魔術師みたい。
 呪われるーってからかわれてた。初めは男子だけだったのに・・・
 中学までは良かったんだよ。知ってる子ばかりだったから。高校は・・・」

 顔を伏せる雲間からの陽光に、眼の陰りがことさら辛かった印象を付けた。

「吐く目にも何回かあわされた。
 でもあたしって、こう反骨精神が旺盛なのよね。
 あの日も、旧校舎の立ち入り禁止の外階段、ボロっちいのに立って、
 ここが悪いんだよ!学校なんてもんに押し込めるから!って
 手摺をガグンッて蹴ったのね。
 火事場じゃなくて怒りの馬鹿力。
 拍子に錆びてた手摺が倒れて、あたしは突き抜けて3階の高さから落ちた。 らしい・・・次目覚めた時は体の外。物に当たっちゃ駄目だね」

 直接何をされたかは具体的に言わない真野が遭わされ続けてきた境遇を考えると、明はたまらなくなった。

 真野は明に気を遣ってか、真野なりに声を明るくした。だが肉薄した内容は相殺できるものでは無かった。

「それでさ、霊状態になってあったまきたから、
 復讐までは行かなくてもいじめてた奴らの所に行ったの。
 どうだったと思う?そいつら」

「反省もしてなかったのか?」

 苦渋の表情の明をおいて、真野は一気に吐き出した。そうでないと途中で挫けてしまいそうな横顔だった。

「どうだろう知らない。後ろめたさは見ただけじゃわかんない。
 そんなことより驚いた。
 親玉の一人の女子は、家で親の前だとすんごい甘えん坊なの。
 それこそ赤ちゃん言葉。
 そんで好きな男の顔色ばっかり伺ってビクビクして。
 そうかと思えばもう片方の女は、ギリギリ。
 塾も予備校も詰めに詰め込んで、パンク寸前。
 ストレス以外何があるって生活してて・・・
 学校が息抜きなんだって知りたくもないのにわかっちゃった。
 余裕があるから人のこと弄ぶのかと思ってたら、二人共普通の子だったの。 やんなっちゃった」

 そこまで吐露して、真野は目を閉じて鼻で息を吸い込んだ。

「見たくないもんまで見ちゃってさ。
 唯一話しかけてくれた子が、裏で寂しさに負けて売りやってたり・・・
 最悪。あたしの方が何にも知らなかった」

 自分を責めてたのか・・・・

 ようやく明は真野が戻れずあの場に固執した訳を教えられた気がした。

 真野は眼を開いて、足元の土を外履き用のゴム製のスリッパの爪先でほじくると俯いたまま

「きっとあたしは、同じ土俵に立つ意気地がなくなっちゃったんだよ。
 あたしの方が肝っ玉ちっちゃいね、あんたより。
 お母さんに聞いた。
 出席日数ギリで足りないから来年もう一度学校やり直し。
 今度は年上になるから気が楽で」

 そうは言っても周りより一年出遅れる新しい環境への不安が、頬の端々に見え隠れしていた。

 明はパンジーに見入った。こんな多彩な色をしていても、土の中の根っこまでは人は想定しては見はしない。

 点滴でも施しようがなかった体の衰弱は、生き霊として自由に生きるための代償だったのだろうが・・・

 全てを知ることはもちろん不可能だとしても、この緑や花を実感して認めたい心境は、明には新しい。

 真野の陰る不安を残した唇に、明の方まで意地を張り続け覆い隠していたものがホロリと取れた。まるで背を撫ぜられたように、明は子供の頃の記憶に戻る。

 人生訓など柄ではない。しかし明は賭けに出た。

 家族と一部の人間だけで隠し通してきたことを、初めて告白めいて言葉にした。

「うちの家庭は、ちょっと特殊でさ。
 俺の兄貴は15歳の頃から自殺未遂繰り返してたんだ」

 真野は、何を言われているのか、ぼんやり隣の間近な明を見つめた。

「一時期は引きこもってネットで借金まみれ・・・
 どーしよーもねえって弟ながらに見離してた。
 でも今は子持ちの親で旦那だし、有機野菜の八百屋やってるよ。
 本人は専門店って言えって言ってるけど、
 八百屋の何がわりいんだってな?」

「・・・・・」

 時間差で、真野にも話の焦点が見てくるが明は続けていた。

「昔と違って、てんでガテン系で元気だし。
 兄貴の娘・・姪っ子を甘やかし過ぎるから、
 あんまり来るなって釘差されてんの俺の方だし。
 でも俺はあいつを今も、心の底から軽蔑してる」

【2018.4.30 Release】TO BE CONTINUED⇒

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