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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

 

<soul-95> 埠頭の光景

 シンガーはやっとピアニストの方へ駆け寄ると、しっかりと抱き締めあった。

「I am sorry. I・・・」(ごめんなさい私・・・)

「Why did you apologize me? She came to see us with her beautiful singing. I am so glad. I love you so much.」(どうして謝るの?こうやって僕らの前に歌と共に再び会いに来てくれてるんだから。嬉しいんだ。君をとてつもなく愛してる)」

「I love you from my heart. Me too. I love you guys. I do love you.」(私もよ。あなた達を愛してる。あなたをとびっきり)

 涙腺が壊れたように涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を、子供のようにくしゃっとさせるピアニストに、愛おしそうに彼の頭を抱えて、刈り上げた頭頂部の縮れた黒髪の上から十分にキスを注ぐシンガーは、想い合う深さが流れる滴を隠すことはできなかった。

 バンドのメンバーも泣いていた。

 言葉は分からなくとも、熱い眼差しで見ていた明を福喜は予想でもしていたように、幕引きを宣言をした。

「お開きだ」

        

 ようやく、幽霊全員と真野、明は倉庫の外へ出た。

 月が煌々と照っていた。

 位置的に前方にいた明は、行き先を問うために振り返った。しかしもう幽霊連中にはつい今しがたまでの若さはなく、老人や中年の姿に戻り、ダンス衣装も消え失せ、若さの片鱗さえ残さず元に戻っていた。

 明は不思議と今度は驚きはしなかった。

 誰ともなく口数は減って、福喜がてろてろと、珍しく面倒そうに歩きながら明に顎でしゃくって示した。

「その先の倉庫の切れ目に行くんだ」

 明は淡々と、そのまま先頭で歩いた。ふと後方で話していた声が耳に入る。

「唄って下さったあの方は?」

 露子の声だ。軽快な声が易々と答える。

「彼女はまだいかないよ。行きたい場所があるそうだ」

 ツテが倉庫を出る間際に、シンガーとほんのちょっと会話していた内容はそんな話だったのか、そう一瞬明が意識を逸らした間に、前方に気が付けば濛々としたさざめきが籠って広がっている。

 明は先に何があるのか怪訝に眼を細めたが、倉庫が切れた使われていない埠頭には、一種異様な光景が広がっていた。

 何百という人でごった返し、古今東西、乗り物が間を埋めるように留っている。

 牛のない牛車、車夫のいないアジア圏のカラフルな人力車や、江戸時代長の駕籠、高貴な者の乗る輿。馬の無い幌馬車まである。

 おおよそ陸上の乗り物で人を運べそうなものが、博物館から飛び出たかに見えて、全て使い込まれた風合いを醸している。何故かエンジンを積んだ物は一つも無かった。

 日本人がほとんどだったが、中には人種の違う顔も少なから混じっている。もちろんひしめき合っている人は一人残らず幽霊だろう。

 わーきゃーわーきゃーとはしゃぐ姿は、明と一緒にいた幽霊連中に負けず劣らず賑やかで騒がしい。

 落ちあった最後らしい明と一緒の幽霊連中も、しんみりさを脱ぎさんざめく中に身を投じて、他の幽霊たちと井戸端会議に花を咲かせる。

 幽霊たちの騒音に掻き消されそうな中で、福喜の声が明にも響いた。

「譲る気は無いよ!!」

 今までの口先だけの叱責とは異なり、芯から来る力強さは有無を言わせないものがあった。

 追い掛けた視線の先に、たじろいでいる真野が居た。

 ついさっきまでの喜び、そんな瞳は一瞬にして曇り、隙だらけの真野に、福喜は一ミリの淀みも無く言い含めた。

「もう一度言うよ。
 お前が本性を見ちまったっていうそいつらにも家族があって、
 一見じゃわかんねえもやもやしたもんがある。
 白黒付けられるわきゃないのさ」

「・・・・・・どうしてわかるの?」

「あたしだからさ」

【2017.11.10 Release】TO BE CONTINUED⇒

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