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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

 

<soul-91> 融合する歌

 音の波が留まることを知らずに、大きな渦を作り、時には脈打って、生身の体を揺するように空気に解放されていく。

 慌てて明は真野の所へ駆け寄ると、どえらいことになったと、重責を感じ始めていたが、真野が心中も知らず、先に両手を掴んでグイッとリードした。

「初めはあたしがリードするけど、後よろしく」

 音が生きている中を、ステップを真野が踏みだした。

 否応なくアドレナリンが出始めた明に、既に我慢できずに踊り始めた他の連中は軽やかなステップで倉庫内をホールとして彩る。

 十勢が華麗にステップを踏み、身長差もものともせずに見事に見目麗しい若い希和子をリードして、明たちの脇を回った。

「着替えなくて、良かったのか?」

 真野に先導されながら、たどたどしく足を動かす明の調子っぱずれた質問に、十勢は真っ黄色のTシャツに薄いこげ茶の髪を揺らして、先ほどの重さも軽く吹き飛ばした。

「僕の正装これだから」

 そう言うが早いか、美しい希和子の相手に十分なリードで、ステップを踏みながら又離れていった。

 希和子はとっておきのウィンクを飛ばしてダンスを舞う。

 希和子のウィンクにも当てられずに『まーた小難しい単語知って』思う明の口から出たのは、意外なほど素直な言葉だった。

「似合ってる!」

 声を飛ばすのがやっとで、明は真野に引き摺られないように、せめてステップが絡まって転ばないように足先を慌しく動かした。すかさず背中で声がした。

「レッツ渡―来」

「!?」

 明が振り返った時には、きゃらきゃらと女の子のように笑ってどちらかと言えば福喜にリードされてくるくると回る青年の助八が、舌をべえっと出しておどけていたが、あえなく動きで舌を噛んで苦い顔で踏ん張っても踊りは止めなかった。

 「やっぱあの爺さんだった」と声にする間もなく、明の方こそ舌を噛む可能性が大きく、思わず慎重さが顔を出して俯いて足元を確認していると、ぐいっと真野の肩で顎を突かれて後ろにのけ反る目の下から、真野が恐ろしい形相で圧を掛けた。

「せっかくのダンスでしょ!」

 横をのんびりした、ステップと言うよりは盆踊りの動きで清宮がリズムも関係無く首を左右に揺すって、つないだ腕を必要もないのに上下に振り舞いながら擦れ違った。

 パートナーの露子は、テンポがどうにも合わないのか、うずうずと太股の辺りを交互に揺すってはいたが、文句も言わずもう諦めたようだ。

「身体が浮いて来るね」

 屈託なく笑う色男に、上品な露子は、先ほどまでの勢いを押し殺し、従順にそれはそれでゆったりとした動きを楽しみ始めたのか、清宮が盆踊りなら、露子は日舞の丁寧な所作を用いて、アンバランスも合い噛み合って、音楽は一種ではない踊り手たちをかっさらい、一つのテンポを創出させていた。

 そして、演奏の序章の後に、信じられない響きが、羽ばたいていきなり天井さえも突き抜けた。

 貫く声は、惜しげもなく倉庫中に響き渡り、メロディアスなピアノの音色を声に纏い、心を、腹の底からその声量の力強さからは想定できない程優しく掬いあげる。

 声の厚みと透明な歌は、言葉の意味がわからなくとも真実の情動を揺り覚ます。張りと伸びのある歌声は胸に直接スピーカーの振動が備わったように、内側から震わせ沸き上がり、ドラムがリズムを刻む。

 もはやマイクも関係ない。持ってはいるが、コードはつながってはいないだろう。

 生の声量が、演奏の音色を悠々と載せて、巨大な「歌」に融合させた。

 吐く息のように自然にメロディを高らかに伸ばしたかと思えば、紡ぐように繊細に言葉と、旋律の調べを調和させる。

 圧倒的な魂がそこに存在していた。

 ハイトーンだけでなく、芳醇な声域の唄が、のびやかにリズミカルに倉庫内全体をスイングさせる。

【2017.9.24 Release】TO BE CONTINUED⇒

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