<soul-85> 少年の苦悩
眼を見開き凝視する明を認めて、威勢がやたらいい闊達な外見の背の高い女性が声を掛けた。
「小僧、見惚れてんのかい?」
「喋り方が合ってなくて気持ちわりい」
頭をバシッと女性に叩かれて、やっと確信が持てた明は、頭を手で覆いながら顔を上げて勢い込んだ。
「だってこんなん!・・・・・
あんたら本当に幽霊だったの!?」
叫びに近い疑問符に、真野は思わず吹き出して
「今頃理解してんの?バッカじゃない?」
笑いを堪えられずに顔を逸らす真野の姿には、警戒が一切なくなっており、明を不思議と安心させた。
明はやっと腹をくくると、若い姿のツテに振り回されて眼を回しヘロヘロになっている助八らしき男性に、品定の視線を投げて首を振っている美人に話しかけた。
「希和子さんわっかい頃って、えっれー美人だったんすねー」
「惚れる?」
余りに妖艶なその色眼使いに、思わず引き下がりながら、明は、
「いや、その後を見てたからそれは・・・」
言った瞬間に、弁解の隙も与えられずに、バシッと福喜と露子にWで頭を叩かれた。
「何で露子さんまで~!?」
明が又頭を抱えてふっくらとなった露子を恨めしそうに見ると、露子はホホホとすぼめた口元に手の甲を当てて
「条件反射みたいなものでございますわ」
明は言い訳を半信半疑に取り、露子を睨みながら、ハアアッと息を吐き切り一同を見ると、
とびきり目立つ整った顔立ちの西洋風の濃い色男に向かって、悔しさが滲む物言いでこぼした。
「清宮さんってものすごっ
イケメン・・・と言うよりハンサム・・・」
嫌そうに言う明は、何のことやら?とすっと呆けて首を傾げる清宮の背後に目が引きつけられた。
一人少年の十勢が、俯いているのに明はやっと気が付いた。
ワラワラと騒いでいる若返った幽霊一同の賑やかな声の中で、微かにだが、小さなすすり泣きの声が交じっている。
どうして十勢だけ、そのままなのか・・・
明が質問する前に、十勢は辛そうな顔を上げて潤んだ瞳で明と眼が合った。
瞬間、我慢が堰を切ったのか、十勢は少年に似つかわしくない歪む声と苦渋の表情を見せた。
「明君はいいよね。もう大人だもん・・・
良かった。僕みたいじゃなくて」
「何だそれ?」
荒げた明の声に、やっと気付いて、一同が注視する寸前に、既に明は怒鳴っていた。
「本気で言ってんのか!?」
怒鳴る衝動を抑えられなかった自分を、明自身が驚いた。
しかし少年の、この十勢に卑屈になられるのは、正直辛い。
十勢は、似合わない眉間の皺を、更に深くして、苦悶しながら目線を外すと、その横顔は大人びて悲しさを増していた。
「僕みたいにならなければ
それでいいんだよ。
もうみんな大人だから成る訳ないんだけど・・・
僕はろくでなしだから」
明が
『何をほざいてんだ!?』
と反射的に出そうになった言葉を、轟く怒鳴り声が倉庫にこだまして遮った。
【2016.10.17 Release】TO BE CONTINUED⇒