<soul-84> ポニーテールの美女
「照れてしまいますわー」
「私も生前は、こんないでたちはした事が無かったですからね。楽しんでますよ」
上品な言葉遣いのボブのマッシュルーム頭がヤケにキュートな女の子が、照れて真っ赤なエナメルのダンスシューズをもじもじと交差させていると、穏やかな口調の青年は、明より若く、目を見張るほどの極上のハンサムだった。
ハンサム青年は物珍しそうに自分のモダンでカラフルな開襟シャツをつまんでいる。
そこに、これ又そんじょそこらではお目にかかれないような、空恐ろしい域の美女が、ポニーテールの尻尾をくるんと揺らしてうら若い声を憂いて響かせる。
「あー、こんな恰好もいいわよねえ。
これでボーイハントの一つでも、してみたかった」
そう言って顎に手を当てる仕草と鈴の音の発声に、見覚えも聞き覚えもある意識をシャットアウトしたい葛藤の中、複雑な心境で明は眉間に皺を寄せるしかできなかった。
スラッとした長身に長い髪をポニーテールにくくった、利発そうな玉を連想させる輝く大きな瞳の美女は、勝気そうで威勢のいい通る声で闊達に喚いた。
「昔話はよしとくれ!・・・?何だい小僧!?何か言いたそうだねえ?」
「あんたら・・・誰?」
明の口から飛び出た言葉に、十勢と真野以外の若者一同は大爆笑を起こした。
「さっきまで一緒に居ただろ?」
見知らぬ小麦色の肌も快活で丈夫そうな女性は、ふっくらした頬の上部の切れ長だが愛くるしい眼で明るい表情をたたえ、黒髪のくるくるとしたパーマのヘアスタイルを揺らしながら、やはり見た覚えのある歯噛みをして見せてくる。
しかし歯は健康的に生え揃い、手をおばさんよろしく前でひらひらと振っていた。
とびきり小さな男性が、リーゼントでキメてサックススーツに近いものをしっかりと着こなし、体を揺すり、見た筈の口を縦にだらしなく目一杯開ける仕草で言い放った。
「精神力で若返ったんじゃー。凄いだろ?どうだ?
兄ちゃんに負けず劣らずの男前だろ?惚れ惚れするか?」
明がフリーズして反応出来ずにいると、小麦色の肌の女性は怪訝な表情を作って、小さな青年を恐ろしげな眼差しで眺めた。
「何度見てもあんた、様になってるじゃないかい。意外だねえ。
年寄りは見た目に寄らないねえ」
「そりゃどうゆう意味じゃ?」
打って変って、褐色の肌の女性は、うっとりとハンサムの方を今度は見やると、急に悔しそうに呻いた。
「清宮は美丈夫そのまんまよなあ。
これでダンスもウマけりゃ心配 Nothingなのにねえ」
「上手い事言いやすね」
と茶々を入れる頑丈そうなガタイのいい中肉中背の筋肉質で黒い髪が元気そのものの針金のヘアーの青年を、落ち着かせるように、柔らかな声でハンサムは
「大目に見て下さいよ。しかし、確かにお嬢さん方は美しい」
「一人例外だろう?」
とシシシと歯がみして小柄な若者が小麦色の丈夫そうな腕を指差すと、指された指を掴んで褐色の女性は指だけで、グルグル青年を自分の周りで振りまわした。
悲鳴を上げる小柄な青年に、頑丈そうな男の子が加勢に行くのを見ながら、この構図に見覚えがついさっきまで有り過ぎる明は、押し黙ったまま後ずさった。
【2016.9.18 Release】TO BE CONTINUED⇒