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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMidi-Room
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<soul-81> 生きる事の理由

 真野は泣かないように口をへの字に曲げて眼をしばたたかせた。

 明の方は、又、近しい人物の、あの出来事を思い返した。

 あいつにそれを・・・ 言ってやる人物が・・あの時居ただろうか・・・・ 仙吉は続けた。

「何でそんなに伝えたくなったかってーと、死んで今更遅いんだけどよ、生きてるって事実がどんなもんかわかってりゃあ、まだまだ生きれた命もあったかもしれねえなあって思ったのさ。
 おいらの弟も又・・・人間ってーのは、もっともっとって思っちまうのさ。 とにかくだ・・・ 事件なんてそんなんばっかだったからなあ。
 惜しくて惜しくて・・・」

 仙吉の瞳が潤んだ様に、明には見えたが、実際は、眼光がきらりと反射しただけで、修羅場をくぐって来た歴戦のつわものは、そうは容易く涙を見せはしなかった。

 真野は口の辺りを擦って、鼻をすすった。

 悔しそうに唇を噛んでいるのは、仙吉のためと言うより、自分の想いに重なるものがあったからだ。

 仙吉は、引っ付けた二人の腕を軽く擦って、

「よっくわかっててくれ。死んでまで救われねえ命なんてねえのさ・・・だからな、ここが肝心なんだが・・・」

 そう言って、二人を信用するように手を離した。

 明と真野は、バッと離れたりせずに、その場で耳を傾けている。

 仙吉はそんな二人の様子が、愛おしそうに微笑んで、一番伝えたかった言葉を口にした。

「死ぬ必要は無いのさ」

 真野は眼を泳がせて唇を変わらず噛んでいたが、言葉がズッシリ響いた様子は隠せなかった。

 明は自分でも驚くほど真剣に聞き入っていた。

 こんな真っ直ぐに話をしてくれた人は明の周りにはいない。

 どうしても相手の反応をおもんばかって、うやむやにしてしまう。

 あいつがこんな人に出会って居れば・・・ 仙吉は伏し目がちに一息ついて軽々と語気を上げて

「自分も他人も、みんないつかは死んじまう!
 ここに居るみんな見たってわかるだろ?
 立場だ何だ関係ねえ。何の役にも立ちゃしねえ。
 だからよお兄ちゃん達、真野ちゃんも、だから今は!
 生きてんだよ。 あんたら今生きてる。

 死ってのは選べないと思うんだよ。選んじゃいけねえもんだと俺は思う。
 とにかく生きるんでいいんだよ。どんなに苦しくて辛くてしんどくても、どんな奴だって生きてんのさ。

 どんな生き方だって否定しようもねえ・・・
 おりゃ死んでからしかそこんとこわからんかったが、命の塊みたいに、みいんな、そこら辺のペンペン草だって生きれてんだからよお、胸張ってこうぜ!

 まわりさえ見れりゃ、本当の意味での孤独なんてありえねんだ。
 みんなどんな命も一生懸命、のんびり寝てても、誰からも見られてさえ無くても、居てくれっからよお。

 そんであんたらには明日がある。明日もあるって素晴らしいだろ?
 何かのために生きてる人間なんていやしねえ。
 死ぬ事は理由は無いって言うけどもさ!
 生きる事こそ理由いらねんだよ!!それでいいのさ。わかるか?」

「・・・・・」

 真野はもう答える事が出来なかった。

【2014.6.27 Release】TO BE CONTINUED⇒

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