<soul-80> 殺人と天災
「だってあんた、俺とかより屈折してんぞ? だからかもしれないけど、 生霊でいたからってそんないい事はないんだろうなって」
「!?」
真野が眼をむいて、怒鳴られる!? と明が身を固くして、警戒する最中に、 ひょいっと間に又入って来た者が居た。
胡麻塩頭をこすって、もじもじと体を小刻みに動かしている仙吉だった。
「どうしたの?」
自分の剣幕もお構いなしに、真野が心配そうに仙吉を伺うと、 仙吉は手でまあまあと制して、咳払いを一つすると両手で、真野と明の外側の腕を挟んで、二人を眼の前に並ばせた。
明と真野が、バツが悪そうに、お互い牽制して直立し、肩から腕が引っ付けられているのを気にしていると、仙吉はニコリッと眼を細めて切り出した。
「おいらも仕事じゃもっぱら『俺』や『自分』って使ってたのが、自然と『おいら』に戻っちまった。不思議な夜だな」
微妙な表情で、何が始まるのか、眼をお互い見合せるのも距離が近すぎて気恥かしく、モゾモゾしている明と真野に、フッと笑いながら、先ほどまでのがっつく様なテンションとは裏腹に、仙吉は穏やかな口調だった。
「おいらが生前、何してたかは 想像つくかい?
今のおいらじゃ見えないかもしれないが、 警部補だったんだよ。
勤続43年」
明が、煮え切らない様子で首を傾げると、真野は明との距離に身を縮めながら、しかし仙吉の力強い手に寄り添わされて、複雑な表情で軽く頷いて見せた。
「色んな現場に遭ったよ。 色んな人間を見て来た・・・・なあ? 殺人と天災の決定的な違いって分かるか?お二人さん」
「?」
「え?・・・・急には・・・・」
口ごもる明に、真野も返事が出来ないでいると、仙吉は、何を見たのか、遠い寂しそうな瞳で、斜め下の空を睨んだ。
「天災は止められない。でも殺しは止められる。殺さなくてもいい。殺す必要が無い。って、言った方が正しいんだろうな・・・・」
「?」
首をもう一度傾げる明に、真野は神妙な面持ちで、顎を引いて仙吉を見つめた。
仙吉は、鋭さが瞬間に消え、緩く噛みしめるように話した。
「どうせ生まれた命はいつかは死ぬ日を迎えるんだ。
それを早める事はしちゃなんねえ・・・がむしゃらに生きていけって。それでいんだぞって。
そんな事すら、死んで気付いて、どうやったら伝わるか・・・誰かに何かしら伝えねえと・・・そう考えてた。そしたら今に至っちまった」
真野は、何故か目頭が熱くなり押し黙ると、気持ちを押さえ込もうとしていた。
【2014.6.23 Release】TO BE CONTINUED⇒