<soul-66> 夫婦の隔たり
佐山は途切れがちに切り出し始める。
「不満・・・・・そうじゃない・・・・・
私が誤ったんだ・・・・あの事故は・・・・・
私の不注意で起きた・・・・・疲れてさえなければ・・・・・
防げる事故だった・・・・・・・娘が気がかりで・・・
でも何より民に申し訳無かった。
私一人ならいざ知らず、無理をしなければ、
私が運転を誤らなければ・・・あの事故が無ければ!
・・・・民はまだまだ死ななかった・・・・
死なずに済んだ・・・今も生きていた!!
その心残りが、私を留めたんだ・・・・・・
あの子たちが立派に家庭を築いて、
民の後を繋いでいってくれるのを認識できたから、
もう逝ってもいいんだと理解出来た。
あの子たちの幸せが、私達の・・
民の幸せだと知っているから」
そうやっと、体を折り告白する佐山に、民は一つ言葉を飲み込んでから声を掛ける。
「・・・・・・無理を・・・させたのは私の方だって気付いてたのよ。
すぐ神経質に騒ぐから、
あの時もあなた黙って運転してしまったじゃない。
いつもそうだった。二十五年も夫婦だったのに・・・
私達分かり合ってなんかいなかった。
いつも余計に仕事にのめらせたのは私だったの」
そう顔を背ける民に、明はぼんやりと、この夫婦の隔たりは、いつまで続くのだろうと考えた。
ちょっとした事の積み重ねが、こうも夫婦間に溝をもたらすのなら、それが解消するのは、佐山が素直に告白した今でないなら一体いつなのかと。
そして同時にある男性が頭をよぎった。
小さな頃からよく知っていて、一番身近な異世界の人物。
その男性を思い起こしたのは、まるで彼女の事を思い出すように切なく苦く、そして彼女とはまるで違う現実の人物像だった。
彼女以外の人物が明の脳を占めのは久しぶりだったので、明は軽く立ちくらみの様な眩暈をもよおした。
あいつが居る・・・こんな俺でも・・・・まだあいつが居てくれる。
そんな染みの様な苦みと安心が明に募るのも知らず、しかし佐山は、言いきってしまった事で少し救われた様子で鼻をすすると、姿勢を正し
「お見苦しい所をお見せしました・・・もう成仏する身です。
これ以上は何も言う事はありません。
どうぞ皆さん、ダンスの練習でも何でも戻ろうじゃあないですか」
そう眉間に皺を寄せて、まだ辛さを飲み込んでいる佐山に、露子が遠慮がちに言葉をかける。
「何も知らないで騒いでいたこと恥ずかしく思いますわ・・・・
ですけれどもね、私たち確かに色々あった身ですわ。
ですが、今はもう成仏の準備に入ってます。
不幸からは離れてようございますわ。
私も様々な事がございました・・・
幸せを感じれない時もございましたけれど・・・
私今、不幸じゃございませんもの」
ツテも珍しく優しく声をかける。
【2011.9.6 Release】TO BE CONTINUED⇒