<soul-64> ボロは着てても心は錦
怯んだ佐山にこれ幸いと、希和子が話を無難な方に戻そうと、皆の視線を集めるために、わざと明をからかう。
「お兄さん、明君?は所帯を持つ余裕はまだまだ無さそうね。
ま、所帯を持つのは勢いなんだけど。試す度胸はある?」
「何で俺に振んだよ!?」
と振られて驚きとやるせなさで騒ぐ明に、希和子はどこまでも軽くからかう様子で口に手を当て、ホクホクと
「だって明君は、生きてる生身の人間なんですものおー」
ツテが面白がって明の顔を覗き込みながら
「女が居ないから結婚できないなんて、フニャけたこた言わんわな?
生きてる女なんてごまんと居るんだ」
「・・・・」
とムクレ気味な明に追い打ちをかける様に
「相手にされないって場合もございましてよ。あまり明ちゃんをお責めにならない方がよございますわ」
と憐みの言葉をかける露子に、もう警戒は既に先程切れていた明は、我慢できずに突っ張る。
「かわいそうな女なんだよ!!」
「あらま、本当に相手が居たのかい」
と目をひんむいて悪乗りするツテに清宮がたしなめる。
「ツテさん。そりゃあ明君にだって好きな女性の一人や二人」
「二人いたらおかしいでしょ?」
と十勢まで混ざると、話が混乱してくる。
「!?かわいそうな女なんて存在するか!!
あんた女をなんだと思ってんの!?」
と真野が逆上すれば、福喜まで腕を組んで納得した様子で
「かわいそうな命なんてないからねえ。
存在が惨めな命なんてないんだよ。
そんなんだから女もついていきたくても、いけなくなるさねえ」
「何だそれ!?俺の話とは違う!!まるっきりズレてるし!!」
明が頭に血が上りながら必死に話を自主回収しようとしても、話の暴走は止まらない。
「好きだからって、相手をちゃんと見てやんねえと、気持ちも通じんわな。
おいら経験少なくてもそん位はわかるぜ?」
ともう大人しくなった佐山から仙吉が手を放し、佐山の傍らで頷くと、希和子は語尾に力を込めて
「明君。恋愛って思い込みじゃないのよ。むしろ現実」
と語気の強い説教の勢いを見せれば、物知り顔の露子は
「好いた女の心が無くとも、自分を惨めにできるのは自分自身ですわ。
『惨め』って心ですもの。お立ち直りなさいな」
と憐み全開の含み笑いをすれば、ツテは手を打ち
「お、いい事言うねえ。ボロは着てても心は錦ってね、言うじゃあないか。
旨い事言うもんだよ。志だけは高く持ちな」
「俺そんなボロじゃねー・・・・・ボロボロ?」
【2011.7.19 Release】TO BE CONTINUED⇒