<soul-63> それぞれの幸せ
その月の光に当たった幽霊達の体が、透けて行くのに対して、真野は白い霞みの様に薄らぐが形は揺らがないのを見た明は驚愕で目を見開いた。
「あんたら……体がっ」
「ああ。あたしらは実体が無いからね。
空気や光の加減で、どうにも見えたり消えたりしちまうのさ。
構わないどくれ」
福喜がさらりと流すが、明には幽霊連中の実体の無さよりも、何故か真野の質が他の面子とは違う事の方が気持ちを引き付けた。
露子が付け加える。
「他の幽霊方から聞いたんですけれど、
月に愛されましたら本当にこの世とはおさらばなのですって。
どう言う意味かは存じ上げませんけれども」
「ダンスが終わって、その時になればわかりますよお」
そう希和子が微笑ましく相槌を打つのを放っておいて、明は
「ギャル……あんた」
と真野に口を開き、真野が明にふと顔を向けた瞬間、佐山が
「真野ちゃん。君にはまだ分からないだろうが、明君の方が正しく感じるよ。
自分の事だけ考えて生きて行ける人間は社会では通用しない」
佐山が口出ししたのに対して、真野と明が佐山に顔を向けて反応を示すより早く、ほとほと嫌気がさした様子で、民が怒鳴りつける。
「あなた!!いい加減に説教しないで!!
真野ちゃんには真野ちゃんの!あの子にはあの子の幸せがあるわ!!」
佐山は民の柄に無い突然の怒りにグッと詰まり、『あの子』が佐山夫妻の娘だと言う事を二人の他にその場で知るたった一人の明には、すぐにその察しがついた。
佐山は何かを言いたそうに口を歪めるが、言葉を飲み込んでいると、助八が茶々を入れて場を濁し、終わらせようとする。
「何の話が知らんけんど、仲がいいほど喧嘩するっちゅーて。
喧嘩する相手がおって羨ましいのお」
助八に援護射撃の様に、すぐさま仙吉が民と佐山の間に半分無意識で体を挟むと、早口で茶化す。
「夫婦喧嘩は犬も食わねえってのはよく言ったもんで、
ふうふうアツアツな証拠でしょーなあ。いや、本当当てられますぜ」
「何が言いたいんですか?」
邪魔な様子で仙吉を払おうとする佐山の腕を、月明かりに透けながらどうやってか、その小柄な割に強堅な腕で、仙吉はギッチリと掴み、
「夫婦とふうふう、掛けてみやしたあ」
とわざとおどけた口調を取るが、その笑顔からは有無を言わせない豪の強さが感じられた。
【2011.2.2 Release】TO BE CONTINUED⇒