<soul-62> 感じるがままに
「それって……威張れるような事かー?」
呆れ返って、明は真野に対し『これだからお子様は』と正直思った。
次の言葉を聞くまでは………
「だって!!自分の事も考えられない大人になんて
なりたくないんだもん!!」
瞬間明の胸の真ん中で、『ドンッ』とはっきりとした音がした、正確にはそう感じた。
明はやっと気が付く。
何か大きな何かを、明は忘れている……
そうなんだ、俺は忘れてた…………
自分の事しか考えられない様に見えて、自分の事しか見れない様に捉えていたが……その実本当は何も考えられなかった……いつの間にか………自分が何者かを忘れている………
露子がそんな明にも気にも留めずに、能天気に話を聞き付けて口を挟むと
「子供ができたら、そうも言ってられないのよ~?」
そう諭すが、真野はムキになって
「!?それまでは!!自分のままで居たいじゃないですか!!」
と大きく言い切る。
「それがままならねえのが世の中なんだよ……」
明は自分でも気付かない程、恐ろしいドスの効いた落ち込んだ声で喋っていた。
真野は怯むでも無く逆ギレもせず、哀しそうにその明を見て、
「だったら余計……今は自分で居たいじゃない」
明は険しい顔を持ち上げると、哀しく切なそうな真野の顔を見て、真野が何も分からずに言っていない事を把握した。
真野は真野なりの何かを知っている。
それが明と共感できるものかどうかはもちろん別の話なのだが、今この場でそう思うと、明の辛い重さは、心を縛ったロープの様な太く絡まった塊が、少し緩んで解れていく様だった。
この連中の底抜けの明るさ。
明るくてもいいのかもしれない。
何も分かっていなくても。
単純さを求めても。
そう言った事が流れる様に頭を循環して、明は気が少し楽になった。
今この時に、感じるままでいいのかもしれない。
辛さも………いついつまでも辛い訳ではいられないなら、今は辛くとも、それも有りなのかもしれない…と、自分でも意外な程素直にそれらが明に染み込んできた。
この状況がそうさせたのか、真野が促したのか、明は今やっと随分久しぶりに、自分を見た気がした。
自分は確かに何も分かっていなかった。
何も知らない。
でもここに居る。
だが恐れは無い。
それが、意地を張らなければならない対象が、ここには誰も居ないからだと、明は自分で自分に気付いた。
それは相手が真野でさえも、例外で無くそう言えた。
俺が張っていた意地は、結局は……
……そう明が考えていると、その時倉庫のかなり上の方に付いている小さな窓から、月明かりが明達の間に射し込み始めた。
【2011.1.3 Release】TO BE CONTINUED⇒