<soul-60> 隠していた傷
明にとってサラリーマンの道に入る事は、少なからずプライドを重視してきた明の精神を棚上げする事でもあったし、時にはまるで後ろに隠して、更に意識下に追いやらねばならない場面の方が多かった。
その分意地を張って自分を保って来た。
その薄れつつあった最後の砦のプライドまで、彼女と出会った時点で剥ぎ取られた。
明にはもう虚勢を張れるのは体一つ、後は何も残っていない……そう自分で認めるのは、彼女と会えない苦しみと同等に辛かった。
だからその身も通じなくなる借金だけは、首の皮一枚の理性がSTOPさせていたし、プライドさえない自分を見るのは、恐怖以上に『空虚』と言うもっと恐ろしいものだった。
ただ……今振り返って明は気付くが、ここに来て以来、仕事の合間も懐かしむ様に疼いて離れなかったまだ生々しい彼女の残像の傷が、本格的に疼く前にそれを忘れて隠し切って騒いでいた自分を自覚させられてもいた。
明は、ここに立って今初めて、彼女を記憶に留めておいて、自分に何ができるだろうと漠然と、何か霞みの様な白っぽいものが心に雲の様に広がるのを感じた。
それは先程から感じ始めていた胸を濡らす温かい微かな心情とリンクする様だったが、しかしまだそれが何かをしっかりと掴み取れていない。
明はそんな自分に戸惑いながら、胸の内を吐露した。
「もういいんだ……とにかく俺は他にやりようが無かった。
できなかった……ただ……自分の何の力も無さが情けないだけなんだ」
真野が思わず口を出す。
「情けなくてなんでダメなの?そんなんプライド要らないでしょ?」
「馬鹿言ってんな……何度も言わせんなよ…
プライドなんて初めっからねーよ」
そう気まずそうに目を伏せる明に、ムキになって真野が食い下がる。
「じゃあ、何であんたはそんなに外れてんの?」
「?」
女性陣と明の一同が意味が分からず真野を見つめると、真野は我知らず涙が込み上げそうになるのも構わず、明に自分自身への不満をぶつける様に突っかかる。
「外れてんじゃない!!
こんな意味も知らないくせにみんなと一緒にって。
普通だったらここには居ないよ!!
自分の訳わかんないとこ認めて何で悪いの!?
それ自体もう、みみっちいプライドあるからでしょ!?」
【2010.10.21 Release】TO BE CONTINUED⇒