<soul-59> 追憶
唯一、雨の中口だけは乾いていているのに開く事ができ、言ってはいけない……このままでは……そう思いながらも言葉はするりと口をついて出てしまう。
「何でそこまで真っ正直なんだ?………嘘位つけよ………」
彼女はブランコの小さな揺れに身を任せながら、もう漕ぐ事はしなかった。
代わりに明は見ずに返事をする。
「真っ直ぐ見てくれる人、はぐらかす訳にいかないでしょ……
もう潮時……ごめんね。だからこうなのよ」
「意味わかんねーよ。理由になってねえ……
初めっから相手にもしない方がなんぼかマシだ」
そう言っている側から、それは違うと分かってはいた。
例え金でしか会う事が出来なくとも、身の丈を越える無理をしていたとしても、もうこれで終わりだとしても…関わってくれた喜びは、明の人生で最大のものだった。
例え立ち上がれない程の傷みよりも。
彼女は静かに立ち上がると、寂しげに微笑んで、手も振らず振り返りもしないで去って行く。
もう追いかける気力さえ明には残っていない。
金よりも時間よりも、一番大事なものが明と彼女の間には成立しなかったのだ。
だから今後彼女を否定する事があったとしても、悔いる事は無いと分かってはいたのだ。
そう分かってはいた。
彼女は彼女の気持ちしか見れない。
でもそれは明も同じだった。
責める事はできない。
重なる気持ちが無かっただけの話だ。
彼女が自分を見ていなかったと理解したとしても………
× × × × × × × × × × × × × × ×
そうやって終わってしまった。
結局終わらせたのが自分なのか彼女なのかさえ、今の明には判断がまだつかない。
後に残ったのはすっからかんに近い財布の軽さと、甘かった香りの残り香だけだ。
それでも分かるのは、彼女が失望と同時に明を見抜いて助けてくれた事実だ。
もう一晩でも彼女の最後通告が遅ければ、明は借金をすると決めていた。
その点では、彼女は賢く明を誘導してくれていた。
何故なら彼女は明が最初に店に一人で訪れたその席で既に
「遊び相手ならいつでもいいですよ。遊びの内でね。遊びましょ」
そう仕事で相手にしながら、牽制してくれていたのだ。
【2010.10.3 Release】TO BE CONTINUED⇒