<soul-58> 雨の中の女
露子は到底分かり得ないのか、声もたくましく明に説法する。
「理解と言いますのは相手方の思惑に左右されるものですわ。
それをどうこうしようとも、相手を変える事はできませんのよ?
でしたらこちらが理解して、
妥協点や思いやりで擦り合わせて行くのが話がはようございますわ。
結局真摯な態度が、相手方にも伝わって初めて
相互理解まで辿り着けますの。
あたくしなんかはそうでございましたわ。
明ちゃんは、真面目にコツコツやっていらっしゃったんですの?」
明が即答する。
「いや、そこまでではない」
ムキになっているのでは無く、本心から首を小刻みに横に振る明を見て、真野がいたたまれなくなったのか激昂から一変して
「別に……今する話じゃないし……詳しい事は聞かないし……ね?」
と露子達の顔を見つめて、もうこの話題を終わらせようとするが、民はこのままではいけないと、
「露子さんの意見が明君に当てはまるかはわからないけど、いいのよ、明君。
一人一人、背負ってる物は違うんだから。
死んでる私達でさえそうなんだから。
無理に自分を卑下しないの」
「卑下とかじゃなくて……そう言うんじゃ無くて………俺……
何かしてやりたくても……側に居んのに……
何もさせてもらえなかったから………」
思わず警戒の糸がぷっつりと切れて、悩んでいた心情を吐露する明に、希和子は急に真顔で
「それはしょうがないじゃない。
相手が辛い時は、俺は側に居るって言いたくもなるもんよ。
指くわえてはいられないでしょ」
明はその希和子の言葉に、まるであの場面を見られた気さえしながら、今現在の自分の立っている現実さえ茫漠としながら思い出す。
× × × × × × × × × × × × × × ×
霧雨が静かに降りだしていた。
夜の繁華街に窪みの様にある小さな公園で、彼女はピンクのシフォンドレスをまとって、ブランコに座りキコキコと金属音も気にせずブランコを揺らしている。
傍らに立つ明は、安手のビニール傘を差しながら、つい今の彼女の言葉に、どうしていいかも分からず、ぶっきら棒に開いたままの傘を彼女に差し出した。
「濡れると風邪引くから」
自分のためではない、彼女のために持って来た、たった1本の傘だったが、彼女は首を横に振って頑として傘を受け取ろうとはしない。
夜露にも似た霧雨が、彼女のドレスとセットされた髪をしっとりと濡らしていて、仕事に戻らねばならないのに、ここでこうして濡れている彼女の意思の固さが、明を動けなくした。
【2010.7.18 Release】TO BE CONTINUED⇒