<soul-57> 負の感情
場の緊迫感に耐えられずに、露子がホホホと手の甲を口の端に当て、お嬢様笑いで誤魔化そうと提案する。
「それじゃあね、今の希和子嬢の発言は水にお流し致しましょ。
それより!!真野ちゃんでもお相手に不足がおありになるのでしたら、
明ちゃんはどんな女性でしたらお相手に適されてますの?」
と回りくどい嫌味もこっそり忍ばせるが、自分を『ちゃん』付けで呼ばれたのも、露子の嫌味も明には気にならなかった。
正確には、明には『どんな』と言う質問に当てはまる女性は今現在一人しかいなかった。
その事で瞬時に頭がいっぱいになった。
「……………」
言葉にできずにためらう明の尋常ならざる様子に、女性陣も、ましてや真野までが興味を持って明の発言を待った。
明はやっと言葉を見つけると、注意するのも忘れて口にした。
まるでそれを口にする事は、今の明に残された、数少ない一つの喜びでもあった。
「………いや、どうのこうのより……ただ単に…落ち着いた女がいい」
全然落ち着いてなんていなかった………
明はそう喋ってしまいそうなのだけはグッと腹の底で堪えた。
その代わりに、考えがつい口をついて出てしまう。
「女なんて誰だって一緒でしょ?
男の事なんて目の前の相手すらほとんど見ない。
自分の事だけ……どこまでも理解されないって……何なんだろう」
「それは…女がどうこうじゃなく、
明君が相手を理解してないからじゃないの?」
そう明の自分達への警戒の心境の変化を分かっていながら、柔らかな釘を刺す希和子に、同情した民が明に問いかける。
「そんなに誰にも理解されないって思ってるの?
それとも女性に限って?」
殆ど、関係の無い明の私生活まで心配している民の様子も目に入らず、明は自分を説得する様に目を閉じて額に両手を当て声にする。
「わかんないっすよそんなの………でも明らかに……
理解はされて……されないって分かってるから」
明のこの台詞に、真野は初めて明と言う一人の人間を認識して、同調するかのように明の姿に感情移入した。
その背中は、真野のそれまで明に抱いていた偉素振りや生意気さと離れて、やっと立っている心細い線の様な、折れ曲がった明の主軸を真野に印象付けた。
それは真野が自分に抱いている負の感情そのものでもあった。
【2010.6.12 Release】TO BE CONTINUED⇒