<soul-54> 度胸と愛嬌
真佐山がつい大きく、甲高い声で民の話を聞き咎める。
「ええ!?お前そうだったのかあ!?そんな理不尽な話があるか!!
相手はあの子と同い歳だろ!?しかも子供だぞ!?」
「男の人にはピンとこないでしょうけどね」
民がツンッと相手にもせず澄ましていると、仙吉が身に覚えがあると
「ああ、でも俺っちもおじさんって初めて言った糞ガキは
頭小突いてやったなあ。
爺さんはしょうがなくなく諦められたが。
自分で言う分にはいいんだが、他人からってーと」
ここは出番とばかりに腕まくりをしながらツテが陽気に
「何だい何だい。みんな肝っ玉がちっちぇえねえ。
わたしゃ自分から『おばちゃん』と『ばあちゃん』って呼べって
教えてやったよ。
何も知らねえ子供ばっかり可哀想じゃないか」
そんな各々の喧々轟々となりそうな雰囲気を押し留めたのは、福喜ではなく清宮で、脇で顔を背けて小さくなっている十勢を意識しながら、まぁまぁと手を扇ぎ、
「歳の事はこの際置いておいて。言うじゃないですか。
男は度胸女は愛嬌、より、実社会では女は度胸男は愛嬌。
皆さん覚えがあるでしょう?
女性を尊重しつつ、我々は紳士であらねば」
「それで女の御機嫌取って何が残る?
わしみたいに殺されんのが関の山だぞおい」
と両手を垂らして祟る仕草をしながら舌をベロリッと出して目をひんむいておどける助八に、皆は毒気を抜かれて、何故か笑顔に変わり、今度は楽しそうに騒ぎ出す。
明は余りの幽霊連中の楽天ぶりに、呆気に取られて、つい声を更に荒げ
「そこまで愛嬌必要かよ!?
あんたらは愛嬌だけだろが!!愛嬌だけ!!」
そう叫ぶ明を笑う様に
「愛嬌も芸の内~」
歌う様に仙吉が囃せば、
「愛嬌がありゃあ、痘痕もえくぼじゃ」
妙に説得力のある調子なのだが、助八がわざと腰を折り曲げヨボヨボと合いの手を入れると、今度はそれを引き取り
「この世の名残だ。
度胸も愛嬌も振る舞ったってバチは当たんねーよい!」
ツテがお手をどうぞと掌を上に向かって持ち上げ音頭を取る。
そのダンスとは程遠い盆踊り風の勢いから、グイッと今度はオペラ調に転換させて清宮が謳い上げる。
「だからこそ~私達は--成仏だあってえええええ~♪」
「できるわけ?」
と十勢が小首を傾げて拍子を中断させオチがついたのと、十勢の場違いな心配する様子が愛らしく、幽霊連中の間でドッと笑いが起こる。
笑いに包まれた和の端で、気が遠くなりながら、明は何故自分はここに居るのかと疑問も吹っ飛んで、幽霊達に届かないのも構わずに呟く。
「だからね、何でそんなに明るいの?これも又エンドレス………」
【2010.1.11 Release】TO BE CONTINUED⇒