<soul-49> 互いの負い目
「ほう……産婆かあ。懐かしいのお」
いつの間にか一人怒っていた筈の助八も、落ち着いて露子の話を聞いていた。
ツテが相変わらずカラカラと口を出す。
「そーんなに古い話じゃなかろーて。
わたしゃ入院するまで、現役で産婆やっとったけどねえ」
「え!?そんな経歴の持ち主!?」
とこちらも、いつの間にか持ち直していた明が突っ込むが、誰にも相手にされず、幽霊達は生前の思い出話に花が咲く。
助八が腕組みをして、ややのけ反り誇らしげに
「ツテの婆さんは産婆かい?わしゃはな、マドロスじゃったけん。
昔は港港で女もおったし、露子嬢みたいにな、
いろんな言葉が混ざってしもうた」
「ある種それ羨ましいなあ。
ボキャブラ?天国?なんて言ったかなあそれ?
つまりは単語力が多いってー事でしょ?
今俺が求めてる最大のもんだからなあ」
仙吉が尊敬の眼差しで、助八に賛辞を送る。
「マド…ロスって…何?」
十勢が、先程の質問が妥当では無かったのを悟り、控え目に問い掛けると、今度は容易に答えられると安心して佐山が
「船乗りの呼び名だよ。確かに、ロマンある仕事だよなあ。
あ!!女性が港で待ってるってとこじゃないですよ!?
船乗りって、職業柄男っぽいイメージあるじゃないですか。
私は機械工学大学で専攻して、そのまま企業の開発畑歩んだ口だから。
憧れありますね。
肉体労働はどうにも苦手で。徹夜なら自信あるんですけどね」
「何言ってるの。それで事故起こしたんじゃない。
いつまでも若いつもりで睡眠削って、
不注意で命落として、娘に申し訳無いって思わないの?」
そう民は夫にヤケに突っ掛かる。
「だからっお前!!それだけが原因じゃないだろ!?
相手の車があの時ライトを」
「止めな止めな!!そこまでにしときな!!
原因なんてーのは分かりやすく一つなんてありゃしない。
全部が集まって初めて事は起こるのさ。
それを探ろうなんてーのは、生きてる奴らの発想さね!!」
福喜が水を差すと、佐山と民は気まずそうにお互いに顔を背ける。
一瞬、何故だろう……明はこの夫婦が、お互いに後ろめたさを抱えている様に垣間見えた気がした。
それが何の負い目なのかは分からないまま、考える間も無く露子が場を和ませ様と会話を続行させる。
「私は主婦でしたけれど、行商なども致しましたのよ?
あの頃は辛い時もありましたし、
何も無い所から出直さざろう得ません事もありましたけれども、
やはり自分が生きた時代って、
一番思い入れ深く良い時代だったと思えますわね」
「それは言えてますねー。
だけどあたし、新しいのや今の世の中も嫌いじゃないですよ?
ごったがえしてたりの都会も自然な田舎も。
人も、何かしら問題抱えてる方が人間味があってあたしは好きなんです。
特に男の方は」
とウフッと首を傾けて微笑むと、その気は無いのに、男性陣も吊られて、明を抜かして思わず小首を傾げてニヤけてしまう。
【2009.8.26 Release】TO BE CONTINUED⇒