<soul-48> 露子のドラマ
口に出す寸前だった明の内心は……
『そうか……よくある話なんだ………ドラマ………』
と鬱々と感傷に浸りそうになる脇で、幽霊達が十勢に忘れさせようと、話題を変えるのに必死でわめいている。
明の様子に気が付いていたのはわずかに福喜と真野に希和子だけだったが、三人とも触れないのがベターだと、そちらに話は戻さなかった。
そんな中、ふいに仙吉が露子に話題を振った。
「そういやあ!!露子さんの幽霊話って聞いた事無かったなあ!?
露子さん、何か思い残す事なんておありになったんですかい?
富豪の出でしょ?」
ツテが面白がって補足する。
「元華族様だよ。それが下町に嫁いだのさ」
「まあ、ドラマみたい」
と何の悪気もなく、うっとりと微笑む希和子の言葉に、又『ドラマ………メロドラマ………』そう小さく呟き俯いて、体が前方に傾ぐ明に気付かずに、露子はキョトンとして、自分の話かと納得してから、この場では話すのが礼儀かと襟を正し、ただでさえスキッと伸びた背筋を更にシャンと伸ばして語り出す。
「お聞きになって分かりますでしょ?
私嫁いでからの方が人生長かったものですから、
言葉遣いも下町と生家でのものがごっちゃになってしまってますのよ。
嫁いでからは、それでも周りの皆様方にお気を配っていただけて、
『わたくし』から、『あたくし』に言い換えるのだけは
許して貰ってたんですの。
『あたくし』と言っても一々構わないで、暗黙の了解って話ですわね。
それ以外は嫁いだ者の心構えとして、一切は下町流、
下町言葉で過ごしてまいりましたから。
今は私亡くなりましたから自由に話し方ができますけれども。
ただ……亡くなってから、あ~んまり自由でしたでしょ?
ふらついて遊んでましたら…ふって思いついて………昔の………
生家が見たくなってしまったんですわ。
もう家屋敷はなくなってるのは分かってましたけれども、
その土地でついしんみりしてましたら、動けなくなってしまって。
後の祭りですの」
小さく首をすくめて、おどけるような露子に、佐山が感心して
「それって自縛霊って事ですか?
思い残しや気掛かりが無くても残ってしまうもんなんだ……
今初めて知ったなあ」
「自縛霊……とはちょっと違う気も致しますけれど……
あたくしはね、主人にすら嫁いでから一度だって、
生家の話は口にしなかったんですのね。
でも……そのせいかしら……
何だか突然生まれた場所が見たくなったのは。
私の家では、自宅でお産婆さんに取り上げていただくのが、
お産の習わしでしたから、本当に生まれた場所でしたし……
何て言いますかしら…風景も町並みも、
何もかも変わってはいたんですけれども……
土地が…懐かしかったんですわ。
土地はそのままなんですのよねぇ」
「そう言うもんですよねえ」
と珍しくしんみりと相槌を打つ希和子。
【2009.8.15 Release】TO BE CONTINUED⇒