<soul-44> 殺された面々
明の虚を突かれた声と、福喜の登場にやっと我に返った真野は、抱き付いていた腕を引き離して、代わりにさも明から抱き付いたかの様に明の体を突き飛ばす。
明は真野に手を振ると軽くいなして、それよりも興味をそそる福喜の発言に問い掛けた。
「霊なのに、そう言う力無いの?」
「物体じゃないからね」
福喜はフンッと鼻を鳴らしながら明を見るが、小馬鹿にした様子は消えていた。
むしろ、親しみの込もった眼で明を見ている。
明はそんな福喜の心の機微など知る由もなく、なおも食い下がる。
「だって……霊だろ?怨んで祟ったり憑依したりは?」
「んな器用な真似できるんじゃったら、最初から成仏しとるわ」
「?何で?」
明は合点がいかないと発言した助八の方へ首を回すが、当の助八は調子良さそうに空からと笑いながら
「だってなあ、わしゃ殺されたんじゃもーん」
「殺!?」
急な物騒な話に目を向く明に、助八は大した事ではないと言うかの様に手をブンブンと振って見せて、なおも笑いながら
「あーんまりドタマに来たから祟ってやろうと息巻いて残っとったら、
祟り方が分からんかったんじゃー」
と『じゃー』の所がお気に入りの様子で、皺しわの口を縦に開きっ放しで笑っている。
仙吉がすかさず
「炊飯ジャーと同じですねえ。
最近のは便利な分ハイテック過ぎて使い方が全く分からん。
しかも助八っつぁんは女房に殺されたんでしたよね?
やっぱり台所ってーのは凶器で満ちてるから」
「台所は関係無いー。しかも7番目の家内は家事炊事できんもーん。
飲み薬に毒盛られたんじゃー。保険金目当てじゃー」
と内容の過激さとはかけ離れた浮世離れした明るさで、又『じゃー』の所で口を開けて喜んでいる。
「あたくし達霊って、なってみると分かりますけれども、
以外と何もできないんですのよ。
祟れないのに残ってしまうって辺りが、やっぱり助八さん。お茶目」
「お茶目違うから………」
と引き気味でツッコむのが精一杯で言葉を無くす明だが、助八は清宮や佐山、苦笑する民にまで、何が面白いのか、わざと『じゃー』の口を見せるので忙しく、自分の悲愴な話もどこかに置き忘れているかの様にはしゃいでいる。
仙吉がその様子に一人尊敬の眼差しを向けて
「メジャー級のじゃーだな」
そう言った自分に自己満足して、うんうんと頷く。
【2009.6.17 Release】TO BE CONTINUED⇒