<soul-38> 黄色のTシャツ
真野の明に対しての威圧しようとするしかめっ面は頂点に達していた。
十勢は自分での発言に気まずいのか、首をポリポリと掻いている。
明はただ眉間に皺を寄せて、この少年の発言の真意を測りかねていた。
ただ………
明は呆然と見つめた十勢の姿に、ふいにその時初めて気付いた。
十勢は11歳にしては小柄な方で、何より……華奢なのだ。
首や腕の細過ぎる細さが、明にも今やっと目に付いた。
しかも肌は透き通る様に白い。
いや、むしろ青白いと言ってもいい。
背の割に長い手足が、ひょろひょろとした風貌を作っていて、パッと見ではその小ささや華奢な体を目立たなくしていただけだった………明らかに、健康とは離れたイメージが明の頭に湧き上がった。
この子は……何でここに居るんだ?ふとその疑問が、目の前の十勢を凝視させた。
明る過ぎる程鮮やかな真っ黄色のTシャツも、十勢を包んでその体をカモフラージュしている。
「……………」
瞬間嫌な考えが明の頭を横切った。
死………
まさか!!と何故か幽霊達を相手にしていたはずが、明にその言葉を拒否させた。
しかも、十勢の様な年端もいかない少年が……有り得ない……明は頭を振って額に手を当てると途方に暮れた。
明のシリアスな動揺に、小首を傾げながら十勢は
「どうかした?僕……別にせめてた訳じゃなかったんだけど……」
何か言わなければ……何か否定できるもの………そう考えながら明はしどろもどろで、どうしても先に目に付く黄色に飛び付いた。
「き……黄色……黄色いね、随分そのシャツ」
真野はあからさまな明の動揺に、まるでお手上げだと言わんばかりに横を向いて嫌そうに大きな溜息をついた。
しかし、十勢の反応は、思いの他良かった。
少しの緊張感のあった頬を緩めると、途端に相好を崩し
「でしょ?お母さんが買ってくれたんだ。
いつもは妹おばちゃんの多紀ちゃんが、
『若いかんせい?』とかで買ってくれるんだけど、
これは僕が明るいのが好きだからって、お母さんが。
黄色って、僕の髪の色にも良く似合うからって言ってくれた」
「あ……そうなんだ……」
明は思わぬ十勢の喜ぶ顔に、拍子抜けしながら安心して、もう一度十勢をよく見た。
見てみると、確かに髪の色が柔らかそうな焦げ茶の薄い色で、派手なTシャツとも合っている気もする。
「似合ってるよ。それ、Tシャツ」
考える前に言葉が口をついて出た明に、頬を柔らかいピンクに染めながら、照れ臭そうに顔をクシャッとさせて鼻の下をこするあどけない十勢は、明にはやはり“死”とは縁遠い、普通の少年として映った。
【2009.4.15 Release】TO BE CONTINUED⇒