<soul-37> 生き過ぎた少年
明はネクタイをどこに置いたかもいつの間にか忘れていた。
「なーにを騒いでんの?」
慌てふためく明達が気が付けば、近くには希和子と十勢の背丈の違うペアが練習している場所まで移動して侵入していたため、やむを得ず踊りを中止して十勢が声をかけたのだった。
「え!?あ!?ああ……何かネクタイ失くしたみたいで」
「………」
腑に落ちない視線を明に向ける十勢に対して、希和子は心得たとばかりに軽く片手を上げると、
「会社勤めにネクタイは必須ですものね。今探して来てあげるわ。
十勢君ちょっと待っててね」
と十勢にウィンクしてネクタイを探しに行ってしまう。
「………ふーっ」
大きく息を吐き落ち着こうとしながらも、とりあえず誤魔化す事ができた安堵感と、希和子の歳行ったウィンクに当てられたのがあいまって、その場に固まる明。
明の様子に疑問を持ちながらも、真野はもう残された十勢に話しかけていた。
「本当残念。あたし十勢君と踊りたかったのにな」
若干の明への当てこすりは忘れずに、真野がそう話しかけると、十勢は
「いいペアじゃない。歳だって近いんでしょ?」
「歳が近けりゃいいってもんじゃないよ。もう十勢君はあ。気にし過ぎ!」
明にはその会話の意図する所がわからなかったが、ふと閃いて、パートナーの希和子に不満を持っていると思い込み、取り繕おうと十勢に向かって賛同を求めた。
「そりゃ、あんな婆ちゃん相手にさせられたら、踊る気も失せるわな。
しかもあの人特殊だし」
真野がギッと今にも噛み付きそうな勢いで明を睨み付けた。
十勢は顔を背けるので、何かただ事では無い様子に流石に気付いて明は、声を落とすと
「そう言う問題じゃ……ないの?」
真野は更に険しく明を睨み付けるが、十勢は一つ溜息をつくと
「うん。そう言う話じゃないんだ。ただ……」
「?」
思わず十勢の言葉を待ってしまう明。
「僕が長く生き過ぎた」
「へ?」
いきなりの発言に虚を突かれて思わず明は
「どう言う意味?……何歳?」
「11」
「十勢君っ」
と真野が耐え切れない様子で遮ろうとするが、やっと単語が飲み込めた明は、驚きの方が大きくそんな空気など読める筈もなく
「!?十年で長いって……」
と絶句する。
【2009.3.17 Release】TO BE CONTINUED⇒