<soul-36> 好きだから
明は開き直った様子で
「不服だろうが何だろうがいいじゃんかよ!
その、バーさん達の花道とかっつーのを、
俺らも踊って飾ってやったら、その後はわかるわかんない、
んなの別にしても、やってみる価値あんじゃねーの?
あのバアさんらが望んでんだから。
年寄り信じてみんのも損はねーよ、きっと」
明の余りの計算も無い、開けっ広げな態度に、面喰らっていたが何故か心が落ち着いた真野は、瞬間優しい顔になるのをグッと自分で堪えて、逆にフンッと挑戦的に顎を突き出して
「お年寄りだけじゃないけどね!!
佐山さんご夫妻とか、小学生の十勢君も居るからっ!
しかもバーさんなんて、福喜さんに聞こえたらどやされるから!!」
「揚げ足取んなって」
真野への年下からの気安さで、気楽に笑って、ステップを練習しながら真野を引き連れて移動する明。
大分慣れてきた明のワンテンポずれたステップに合わせて、真野は何故かホッとしていた。
ここの所、このダンスパーティーが近付くにつれて度々訪れいた、焦燥感めいたものが納まった様でもあった。
そしてそれは、真野が冷たい嫌悪感の中をさ迷って、初めて福喜と出会った時に感じた、安堵感にも良く似ていた。
真野は自分で意識する前に呟いていた…
「あたしだって……本当はみんなの事、正しく見れる様になりたい……」
明はそれにほぼ反射的に応えた。
「…それって好きだからだろ?」
「!?」
思わず目を見開く真野に、明はこの夜初めて位、素直な気持ちで応えていた。
「俺はそうだった……」
噛み締める様に漏らした。
「?」
明の豹変ぶりに、訝しむ真野の表情を見て取って、始めてカッと急に我に返った明は、顔が火照るのを誤魔化そうと必死に
「一般論な!!一般論!!」
「?」
何も分かっていない真野の顔にホッとしながら、それでもまだ顔の熱が取れない明は
「何かあっちーな!!ちょっとストップ!!上着脱ぐわ」
と、ずっと続いていたステップをやっと止めて、上着を脱ぎ出すが、袖に腕を引っ掛けてなかなか脱げない。
「?」
明の慌てっぷりに首を傾げる真野。
明は尚も誤魔化そうと
「いやすんげー練習したから、あっちーわ!!」
とやっと脱いだ上着を、バサバサと自分の胸に叩き当てて、風で顔の火照りを取ろうとしながら誤魔化そうと更に必死にベラベラと喋るが、
「上着どこ置こう!?皺入っとマジーからさ。
あーあち……水……ペットボトルどこ置いたっけ?
……ああ!?そういやネクタイ!!どこやった!?やべえ!」
と既に収拾がつかなくなっている。
【2009.3.8 Release】TO BE CONTINUED⇒