<soul-35> 可能性
× × ×
照明が届かない暗闇で胡座をかいて、後ろ手にふてくされている真野に、明るみから近付いて来た民は言った。
「真野ちゃん。あの彼、そんなに悪い人じゃないみたいよ。それに」
フッと興味を引かれて真野が顔を上げると、民は逆光の薄明かりの中でも分かるほどゆったりとニッコリ微笑んで、
「あの彼には可能性があるわ」
「?………何の?」
民はただ再び微笑んだ。
理解も合点も行かず、ボーッとする真野に、民は真野にゆっくりとかがみこむと、両手で真野の後ろ手の手をそっと取り、その両手をフワッと包むと
「同じものよ。真野ちゃんにもある、可能性」
「……………」
真野は暗闇の中で、民に手を引かれて立ち上がりながらも、まだ呆然としていた。
× × ×
民の言葉が、真野にはいまいちピンと来てはいなかった。
しかしだからこそ、民が言った理由を知りたいと、明と踊ってみる気にもなったのだ。
「?………可能性……」
真野は呆然としながらも口ずさんで居た……まだ何の事かは理解してはいなかったが。
「あ?」
明が何を言っているのだと、怪訝に眉を動かすと、真野は瞳にはっきりとした意識と透明感のある光を取り戻して
「知ってんのよね。みんなが大事にしてくれてる事位。
特に福喜さんが色々気遣って考えてくれてる事も!!
アホじゃないですから!!」
明はやや疑い深いまなざしで、いまだ両手をしっかり握ってステップを踏み、リズミカルでは無いが、ようやっと踊る体勢の距離から、近過ぎるのも忘れて真野を見つめ
「ふーん。その割には態度に出てねーじゃん。
何でなのかは知らんけど、あんたに踊らせんのが
あのバアさんらの想いなんじゃねーの?
だから俺が必要なだけで、俺じゃなきゃとか言うより、
今夜あんたの踊る相手はたまたま俺だけだったんだろ?
んじゃ、あんたやっぱ、嫌でも俺と踊るしかねーだろがよっ」
「………その何でかを……あたしは知りたいの!」
「そんなんバーさんに聞け!!」
真野は一瞬視線を外し、躊躇するが、
「………聞けないの……分かってるから」
「?分かってる?って?」
「みんなは成仏するために、最後の花道に踊るの。
それで一緒に踊ったら……あたしには何が残る?
分かってんのよ。
あたしはみんなとは行けないって。だから……
自分でも、どうなるか分かんない………言っとくけど!!
あんたがダンスの相手なのも十分不服だから!!」
「………んじゃ、どうすんの?」
明は問い掛けながらもステップを踏み続ける。
「…………」
真野もステップは踏むが、それ以上答えられないでいると、ふいに明が
「……踊るか?」
「?」
【2009.3.3 Release】TO BE CONTINUED⇒