<soul-32> 鳩が豆鉄砲
練習が再開され始めるが、佐山と明はパートナーの不在で所在をなくしていた。
佐山は民が呼びかけに応じなかった事にイラついているのか、明に指導するのも忘れて、親指の爪を歯で引っ掛ける仕草をしている。
しかし、程無く奥の暗闇から民が現れ、面白くなさそうな佐山に何事かを話しかけながら、民のリードで練習に復帰する。
残されたのは明だけになった。
明は真野の方へ行ったものか判断がつきかねていた。
真野には、先程までの勢いでのダンスをする気はもう無くなっている様にも思われたし、そこまで無理強いをしたくない気持ちもあった。
ただ真野は踊るべきだと言う漠然とした使命感に似たものが、明から消えた訳では無かったが…。
福喜がしびれを切らして、ペアの助八の手を取ったまま、明を焚き付けようと口を開きかけた瞬間だった…
真野が俯き加減でやぶ睨みを効かせながら暗闇から現れ、それでも真っ直ぐに明の方に進んで来たのは。
福喜は踊りの練習に戻りながら、二人の様子を見る事にした様で、助八から顔だけ逸らせて始終明と近付いて行く真野を目で追った。
真野はしっかりとした足取りで明の所まで来ると、何事が起こるかと身を固く立ち尽くし、身構える明に、ぶっきら棒に
「踊るんでしょ?もう一回基本ステップから教えるから。
基本さえできれば、後は適当だっていいよ。
元々楽しめればそれでいいダンスパーティーらしいから」
と、顔を反らせぎこちないが、両手を開いて踊る体勢を作る。
明はすっとんきょうな声で
「踊んの?俺と?」
とにわかには信じ難かった様だが、真野が明の手を取って
「鳩が豆鉄砲食らった訳じゃないんだから。何その顔」
先程までの真野の調子が出たところで、安心した明は、なるべく機嫌を損ねない様に、と自分に言い聞かせつつもつい
「鳩が豆鉄砲って…会話で使う人初めて見た」
ポロリと軽口を叩くが、真野は『フン』と鼻を鳴らしただけで、
「基本ステップも何種類ってあるけど、
さっきまでやってた応用は全部捨てて、
一番分かり易いのだけいくつか教えるから。
いち、に、さん、し、でテンポ取るから付いて来て」
「分かった」
明が言うが早いか、真野はゆっくりとステップを自身がリードして、明に教えて行く。
「はい、いっちーにー、さん、し。いっちーにー、さん、し」
ガタつきながらも、一緒にステップを踏み始める明と真野の姿に、珍しく微笑んで助八に顔を向ける福喜に、助八は
「いい相手見付けたのお」
含んだ笑顔を福喜に向け返す。
「多分ね」
笑顔でステップを踏む福喜。
【2009.2.3 Release】TO BE CONTINUED⇒