<soul-30> 失望と死と
「……………」
明は無言でいた。
チラッとではあったが、明の目に佐山と民は、典型的な模範夫婦の様に写っていた。
それが、民の心にそんな不信感の穴が巣くっていたとは想像もしていなかったのだ。
同時に明は、男と女で、いや、個人個人でここまで見え方が違うものかと、戸惑いを隠せずふいに口走っていた。
「やっぱり勝手だな」
「………」
民は言い返そうとはしない。
自分のその疑問が、揺るがされはしないかの様にも見て取れた。
明はクラブで出会ったあの女性の事を思い返していた。
彼女も……こんな信じる心を失った哀しみを背負っていたのだろうか。
それがあの引きつけずにはいられない空気を作っていたなら、何と言う皮肉だったろう。
明は心底彼女を信じたいと思ったし、又自分を信じてくれと言い切りたかった…
…あの時……。
「………失望……してんですか?」
明の声は責める様な勢いは無く、慰めに近い優しい声になっていた。
「……そうかもしれないし……そうじゃないかも……
正直今は……成仏するので、ホッとしてる。
やっと縛りが解けるかもしれない。
あの人との縁も、今夜が最後になるかもって考えたら……
不思議ね、そこだけは何とも言い表せない……
愛情かな?感じたの。
本当文句言ってて、しょうがないわよね私も」
「それ……今の話………あのおじさん…佐山さんには言わない方がいい」
民は初めてはっきりと明を見ると、その瞳の驚きの色が、落ち着いた民本来であるだろう優しい色に変わる。
「ごめんなさいね。
こんなおばさんの愚痴、あなたに言っても仕方無いのに」
「いや……俺が聞いたも同然だから………」
「………うちの人……きっと黙して語らずな所も結構あったと思うわ。
今にして思えば、ね。今更なんだけど。だから」
フッと明は俯き加減だった顔を上げて民を見ると、民は微笑み、
「安心して。全てに、後悔してはいないから」
明の脳裏に瞬間、先程の希和子の『悔いはないわ』のセリフがオーバーラップしてくる。
女性とは……何でこうも………
口を開こうとした明が言葉を発する前に、相変わらず着地点がないまま騒いでいた幽霊達の所に出張って来た福喜が、騒ぎを怒鳴り止める。
「いい加減におし!!何がそんなに問題なんだい!!
あたしらはもう死んでるんだよ!!」
【2009.1.13 Release】TO BE CONTINUED⇒