<soul-28> 内弁慶
仙吉は腕組みをしながら、
「そりゃ佐山さんの言う事は一理だ。
男ってのはプライドがあって、初めて色んなもんに取り組める。
自信もプライドも無けりゃ、いい仕事ってのはやり遂げる事ができねえ」
助八も同意見と首を縦に振り
「何も持っとらん奴あ何も形にできんからな。
まあ、やってく内に自信が付くもんなんだが」
「あらあ?殿方ってそう言う思い込み激しい様じゃあ、ありませんか?
始めにプライドありきって。
変に偉そぶる殿方に、あたくしがどれだけ出会って来た事か。
何がどうして偉いのか、説明して頂きたい勘違いしてる方って、
結構いらっしゃるんじゃないでしょうか?」
露子が思い当たる節はたっぷりあるぞと皮肉の込もった表情で不服を申し立てると、希和子も珍しく眉根を寄せ
「男の勘違いって、みっともないから」
佐山が心外とばかりに喰ってかかる。
「そりゃ一部の人ですよ!
限られた人の中には、実力より肩書やなんかで
思い上がる人が居るのは事実ですけど……
だからってそれを全部とは決め付けないで欲しいな。
プライドだって、あるからいい方向に女性を守れる方が多いでしょ!?」
「そこが思い上がってんだって。
別に、男に守られてる女なんてえのはまず居ないよ。
そう言うのはヤローの幻想だって」
ツテがホラか本気かわからない、ただ面白がっているのだけが色濃くわかるつっつき方をするが、男性陣は皆本気と捉えムキになって反発してくる。
「男が女を守れないって!?」
仙吉が今までの様子からは想像もつかない鋭く射抜く様な眼光でツテに睨みを効かすが、当のツテはチクリとも感じないと又欠けた歯をみせびらかしながら面白がってえへらあと笑う。
佐山も興奮気味で参戦する。
「聞き捨てなりませんね。どう言う意味でおっしゃったんですか!?」
助八は経験を踏まえてか、がっかりした調子で
「女ってえのは何だろうな。
何でそう一人で生きてるみたいな事、ヘラッと口にできるんだろうかね。
男が養ってんのはどうなんだい。
それも男の勝手なのかい?」
「女は養われる程、何もしていない訳じゃないって話ですよ。
そう言うところが男の方って思い上がってますわよねえ?」
と同意を求めて希和子とツテを見る。
明が勝手に盛り上がっている一同から抜け出しても、誰も気付かず騒ぎは続いた。
明はこの手の水掛け論には全く興味が無かった。
もとからプライドを主張するのは愚かしいと勝手に自分で決め込んでいるのも理由の一つだが、だからと言って女性の自分達への尊重論は、的を射ている様で、結局自分の事しか考えていないへ理屈だと思っていたからだ。
明は場を離れると、何かは知らないが、憂いている様子の民の方へ向かった。
その体から発する寂しげな空気が、明がやはり見た覚えのある、女性に惹かれる空気そのもので、それを解明したいと言う思いの方が、強く明を動かしていた。
白の丸ビーズをあしらった黒いカーディガンの下にライトブルーのタートルネックをしっとりと着込み、モスグリーンのロングのフレアスカートを履いた民は、歳を感じさせない、一見ちょっとした落ち着いたOLの様にも見えた。
その民は端っこで木箱に腰掛けて、俯いている。
明は静かに側までは行ったが、それ以上どう話かけるのが得策かは、いつもの事だったが考え付かない。
こう言う時、決まって明は女性からの言葉を待つ。
そうやって民の目の前で、幽霊達の喧騒とは離れ、ただ黙って立っている明に、民は溜息を一つつくと、両手を顎のあたりで握りながら、ふとこぼし始めた。
「内弁慶なのよ。あの人」
【2008.12.30 Release】TO BE CONTINUED⇒