<soul-25> 『もうそう』と『まあそう』
明は渋々、希和子を認めてあげる態度を取った。
「まあ、じゃあ要するに、達人……だった訳?男遊びの」
「いやあねぇ、いつも真剣だったわよ?付き合えば、だけどね」
明は希和子の最後の言葉に、自分に重ねるものを思い出して、慎重に、伺う様に訊ねてみた。
「思い切れなかった男とかって………いないの?」
希和子はあっさり頭を横に振ると、
「いないわ」
「最後の彼氏……とかも?」
「ええ。充実した関係だったし。思い残す様な事は何も」
「じゃあ……何で」
「成仏しなかったか聞きたいの?………そうねぇ……
強いて挙げれば……成仏するにはまだ早いかしらと思って」
「………そんだけ?」
「そ」
「……あの相手はこうだったとか、あの男のここが忘れられないとかは……」
「無いわね、一切。もともと引きずる様な恋愛体質では無かったし。
終わった事でどうのこうのって迷わない質なの。悔いは無いわ」
今までの口調とは明らかに違って、キビキビとした希和子の答え方は、希和子と言う人の本質を現した様で、心底そう思っていると言う説得力が妙にあった。
明は思わず知らずに呟いていた。
「女は楽でいいよな」
「そう思う男の数倍、女は苦労してるからよ」
明は眉を吊り上げて怪訝そうに希和子を見ながら、
「それ、妄想じゃね?」
「まあそうねぇ」
としらばっくれて答える希和子。
と思うと、仙吉がどこから聞いていたのか飛び出して来たのか、突然明達の間に割って入ると
「お!?『もうそう』と『まあそう』掛けてるかい?」
明は仙吉が飛び込んで来た事よりも、仙吉のダジャレに対する執着に流石に面食らって、突っ込む。
「何でですか」
しかし希和子はたおやかに、微笑み、
「実は」
と仙吉に乗ってあげる。
仙吉はしてやられたと、クウーッと歯がみすると、悔しそうにこぼす。
「やるねえ」
さしもの明も、この仙吉の余りの脈絡の無さと悪気の無さに、希和子の発言を聞いたばかりで、何か男の可愛らしさの様なものさえ感じてしまい、これだけ好きなら何だかもう構わず乗ってあげても良いのかもしれないと、自分でも何を考えてるんだと突っ込みつつ、それでも唯一意識して言えるダジャレを口ずさんでいた。
「今晩わんこ蕎麦」
「あ?そりゃ知ってる。古い」
と明の思惑と反対に相手にもされず、仙吉に一蹴に伏されてしまうと、ショックの余りアガーッと口を大きく開けて呆ける明を見て、希和子はコロコロと喉を鳴らして、本当におかしそうに笑う。
【2008.12.3 Release】TO BE CONTINUED⇒