<soul-22> お兄さん、お困り?
誰も明を咎める者も無く、それぞれ好き勝手にダンスの練習をしたり話をしていた。
バンドのメンバーや二階堂も、何かが起こった事はわかっても、何が起こったかはわからないため、黙々と音響の整備や、集中して楽器の調整をしている。
ここで帰れる……その気になれば………
しかし明は真っ直ぐに、見回して見付けた、奥の隅で壁に寄り掛かり、腕組みをしてふて寝をしている真野の方に向かった。
福喜が目の端でその明を捉えていようと、今の明にはどうでも良かった。
明は真野の目前まで来ると、明の影に気が付き、かったるそうに、あの澄んだ瞳で睨み見上げる真野に動かされずに声をかけた。
「練習しよう」
「………」
『はあ!?』と言う怪訝な表情にも怯む事無く、明は・・
「練習やるよ。最後まで付き合うから。
夜はまだまだだし、ボケッとするには時間がもったいないだろ?」
明を品定めする様な目付きで睨んだ真野は、そんな明の提案などどれほどのものかと一喝で、
「やだね!!」
と言い切ると、さっさと立ち上がって、制服のジャケットに両手を突っ込んで明を通り越して反対側の隅の暗闇に向かって去ってしまう。
明は……性根を据えたと思ったらこれだ!と言わんばかりに額に手をやると、これからどうしたものかと、答えの無いモヤモヤとした思いで目をつぶった。
そんな明に声をかける人物が居た。
声の主は、声だけ聞いてみると、優しい鈴を転がす様な口調で、軽やかに語りかける。
「お兄さん、お困り?」
目を開ける前に『お兄さん』の一言で、それが誰かはわかってしまったが、ここまで来たらしょうがないと、覚悟を決めて明は目を開けた。
【2008.10.22 Release】TO BE CONTINUED⇒