<soul-21> 大事な儀式
明はこのままここに居て、どうなるものかと考え始めた。
ダンスなど、やれる自信も元から無かったが、先程のやり取りで、出す必要の無い傷を又剥す様なマネもしたくはないと思った。
そんな明は、ふと、思いついてペットボトルを手からもう一方の手へ持ち直すと、今までペットボトルを握り締めていた方の手を開いて、指の一本一本まで眺めてみた。
これはいつからかはとんと覚えてはいなかったが、明の風呂に入った時の習慣で、湯船に浸かった時に、必ず掌と足の指先までをゆっくり眺めて、自分がここに居る事を実感する、大事な明だけの儀式の様な癖でもあった。
今、明は、ここに居る自分を掌を通して見ていた。
この訳のわからない連中と、そこまでして金を作らなければいけない自分。
じっと掌を見て、帰ってしまった方がいいのか思案してみた。
若いとは言え、この二十六年生きて来て刻んだ皺が、手相となってくっきりと線を成している。
手相に興味の無い明はその一本一本に意味があるか否か、どうでも良かった。
自分を見極めたかった。
瞬間、何故かちょっと前に引き止めた時の真野の顔が脳裏に浮かんだ。
例の彼女では無かった事に安堵しつつも、この自分と言われも関係性も無い少女の顔に何を見たのか、明は自分に確認してみた。
それは引き止めた時には漠然としていたが、今の明にははっきりと自覚できるものだった。
あの表情には見覚えがあると……
明は、ただ今は、この手で引き止めた真野の事を思い出していた。
それは明に一つの決意を呼び起こさせた。
とりあえず……明は顔を上げて掌を拳に握ってズボンのポケットに突っ込むと、周りを見回して確認しながらその決意を探し始めた。
【2008.10.13 Release】TO BE CONTINUED⇒