<soul-12> 佐山の事情
× × ×
練習を開始して30分も過ぎただろうか。
明は明なりに集中して、精一杯佐山の教えるダンスステップを覚えようと……してはいた。
が、もう我慢が切れて雄叫びを上げる。
「………こんなん……一晩で覚えられっかよ!?」
と殆ど半ばキレ気味。
佐山も腕を組んで困りながら、しかし精一杯の笑顔で、
「大丈夫だよ。基本ステップは簡単だから。後、要は女性の足を踏まない様に、音楽に合わせて踊ってればいいんだから」
そのステップが飲み込めず、もう段々どうでも良くなってきた明は、
「はあー……そりゃ勢いで自分で踊るって決めたけど………
何でこんなめんどくさい事やるんすかあ?」
相手をする佐山も更に困り笑顔で、
「私達のリーダーは福喜さんだからね。福喜さんの決定には逆らえないよ」
「そりゃ、あの強力ババアじゃ」
毒づいて、キョロキョロ福喜が聞いていないか辺りを確認する明。
倉庫の端の方で、パートナーの助八相手に何か騒ぎながら練習をしていた福喜には、どうやら声は届かずに済んでいた。
佐山は明の集中が切れたのと、理解の無さが分かる分、見兼ねて説明をし出す。
「強力……まあそうだけど、それだけじゃないんだ。
私達あの世へ行く者達は、いくつかの小グループに分かれてリーダーを決めるんだ。
リーダーがこの世との別れに何をするか決める。
今時分、他の倉庫でも色々霊達が何かしらしてるはずだ」
「……………あの……本気で自分の事『幽霊』って思ってんすか?」
「………認めざるを得ないから……私は妻と交通事故で亡くなってね。
あそこに居るのが妻だ」
佐山は民を指差すと、やや切なそうに、
「だけど娘…一人娘なんだが…結婚したばかりで、亭主が頼りなくてね。
娘の事が気掛かりでこの世に残ってしまったら、
妻も私が気掛かりで成仏できるところを戻って来てしまった……
孫が生まれたんで、もうそろそろ、許してやるかって気になって、
やっとここに居る訳さ」
「……………」
「このグループの他の人達は病気や老衰で亡くなったり様々だが、
仙吉さんなんかは、死んで初めて生前の肩の荷が下りて、
これからを楽しみたいとこの世に残ってしまったそうだ。
本当色々だろ?
人間生きてても死んでても、どうなるかは全くわからんもんだね」
としみじみと語る佐山に対して、どこか信じられずに険しい表情で考えていた明だが、ふと思いついて、
「あの…真野って奴やガキも?」
「ああ、真野ちゃんは特別さ。生霊だからね」
「い!?き霊!?」
【2008.7.7 Release】TO BE CONTINUED⇒