<Dream-22> 港の防波堤
橋の中頃で歩きながら、流れる風に髪をかきあげ、美頬は朝焼けに眩しそうに目を細める。
「風、気持ちいいね」
そう言う美頬に、フラフラと付いて来た実多果は、橋の真ん中でふらりと立ち止まって、東の日の出始まった川の方を向いた。
気付いて美頬も立ち止まると、優しい声で実多果に声を掛ける。
「ほら、もう朝だよ」
川の流れに目眩を起こしたようにずるりと橋の欄干にしがみついて、実多果はしゃがみ込む。
美頬は知っていた様に、驚かず実多果の傍らにそっと近寄って立ち尽くしたまま、朝日に粒の光の様に輝く川面を目を細めて見詰めながら、実多果の傍に居る。
実多果は顔を伏せて、残った少しばかりの力で欄干に必死にしがみつきながら、ぽつりぽつりと告白し始める。
「………あ……たし…………」
黙って傍らに立って実多果を見守りながら、実多果の話に耳を傾ける美頬に、実多果は美頬の存在を感じながら、そして同時に忘れながら、今さっき思い出した記憶の断片に必死になってしがみつく。
「……大事な…………人が…………居た…………男の………子
なのに……………」
実多果の高校のグラウンドに、他校の陸上部が合同練習に来ている様が思い出される。
それは既に恒例的な練習で、そこかしこで他校の生徒と楽しげに練習する部員達が、走ったりじゃれて跳ね回ったりしている光景が蘇る。
その中に、背中しか見えない男の子と、晴天の空の下声を掛け合ってじゃれあっている、高校の陸上部のウェアを着た、長い黒髪を二つに縛った実多果の姿もあった。
「高校に………入って…………陸…上部で………知り……合った…………」
男の子と楽しげに話している、高校生の実多果の、無邪気な悩みの欠片も無い笑顔が光る。
「いつの間にか………好きに……なりかけてたのに………」
楽しそうで、照れ臭そうな実多果の笑顔を思い浮かべると、反転のしかかる暗雲の様に声が安定を無くす。
「あの日………そう……あの夜!!」
星が輝く夜。
場所は港の防波堤。
高校生の実多果は、長い髪を下ろして、家から直接来たために私服と言ってもカジュアルな服装が、急だった呼び出しを容易に想像させる姿を、軽い駆け足で揺らしながら、待ち合わせ場所に今まさに到着しようとしていた。
「夜……突然電話で呼び出されて……」
【2020.6.20 Release】TO BE CONTINUED⇒
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