<Dream-21> 恐れの正体
漆黒の中に一点だけ、ぼんやりと浮かぶ薄暗がりの中に、長い黒い髪を顔にまで垂らした女の子がうずくまって泣いている姿が浮かび上がる。
その姿は、身につまされる程実多果には見覚えがあり、その姿を認めるだけで、実多果は心と同様に喉も潰れるかとも感じる。
しかし意識の声は途絶えない。
「だって………これは」
そう呟きながら実多果の意識の手が、反発する精神と裏腹に吸い込まれる様に女の子に近付くのに、気がついてやっと振り返って顔をあげた涙を流した少女は、誰あろう記憶を失くした17歳当時の実多果自身だった。
「この子は!!」
そう瞬間叫ぶと同時に実多果の脳裏に、様々な失くしたはずの2年間の記憶がフラッシュバックして、津波のように押し寄せる。
自宅や受験の風景、高校入学から高校生活の教室でのクラスメイトとの語らいや、陸上部に入り意気揚々とする気持ちの高揚、休み時間や食事時の他愛ない友達とのおしゃべりや、放課後の解放感なども鮮やかに、様々な消えていた記憶のシーンが一気に蘇る。
「あたし!?」
実多果がこの記憶、黒髪の少女が自分自身だと認識したと同時に、陸上部での部活のシーンもフラッシュバックで蘇り、次の瞬間、グラウンドの端の草の緑が鮮明に写り、顔は見えないがトレーニングウェアの男の子がグラウンドの草の上に座り込み、実多果に向かって名前を呼ぶ。
それはいつも夢に見たあの声だった。
「実多果!!」
美頬の部屋のリビングで、寝ていた布団をバッと撥ね飛ばして実多果が起き上がる。
次の瞬間、涙がこぼれると、抑えきれず苦しそうに口を押さえて低く嗚咽すると、涙を流して喉を詰まらせる実多果。
「う゛……う゛う゛………う゛う゛う゛っ…………ううううう゛ ……………」
必死に堪えるが、余りの辛さに嗚咽が止まらない実多果に、横に寝ていた美頬が、スーッと静かに起き上がる。
美頬は苦しそうに嗚咽する実多果を悲しげに見ると、一呼吸置いて決然として実多果の肩にそっと優しく手を置き
「外行こう……もうすぐ朝のはずだから。外の方が思いっきり泣ける」
「ヒッう゛うううううう゛う゛う゛…………」
顔を両手で覆い嗚咽し続ける実多果。
朝焼けの中、都会の中では異質な、けれどまだ根付いている、暁に反射する緑と川の流れる水音に、小鳥のさえずりが響く。
川の上の歩行者用の橋の上で、美頬が歩くその後に、既に泣くだけ泣いて泣き腫らしたボーッとした顔で、ふらつきながらやっと付いて歩いて来る実多果が居る。
【2020.6.6 Release】TO BE CONTINUED⇒
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