<Dream-18> 不審な電話
公園の周りの木々や草花の緑や色は鮮やかで、雲は白く遠く、都会のミニオアシスと言った風情のその場所へ、美頬が来るのはいつも似つかわしくない切羽詰まった用件がある時と決まっていた。
職場の人間も憩いに来るので余り出入りはしたくは無いが、声が聞こえても話が聞かれる心配の無い近場と言うとこの公園が適切だからだ。
車の流れる音と、鳥のさえずりで騒がしい中、美頬は携帯電話の呼び出し音を聞いていた。
どこまで踏み込めばいいのか……判断はいつも自分でしなければいけない。誰にも頼れない。頼れたとしても頼らない。
それが良くても悪くても、最悪の結果を導き出さない方法だと知っているからだ。
最終的だろうとなんだろうと、結局自分で決めるなら、最初から自分で決めた方がいい………
電話の相手が出た。声を確かめて美頬は問う。
「柿崎さんですか?」
電話の相手、柿崎が声から美頬と知り戸惑う返事を、いつもと違い事務的に聞く美頬は、やや間があって柿崎の言葉が一区切りついたらしく、話を切り出す。
「心当たりがあるか、ちょっと調べて頂きたいんです………
はい、一年前……誰か………」
実多果は自分の部屋でベッドに横になり小説を読んでいた。
学校を辞めてから、自由になった時間は、実多果にとって自由無き自由の様なもので、何をするつもりにもなれず、もっぱら家で過ごす事が多かった。
初めはマンガに没頭していたが、随分読み漁った後、マンガのチョイスもパターンが似通って来たため、馴染みが無かった小説に手を出し始めた。
今はミステリーにハマッている。
青過ぎる文学や暴力中心、ましてやラブストーリーはどうにも肌に合わなかったが、ミステリーならジャンルを問わず別に読めた。
テレビは滅多に見ない。
時間に余裕があると、返って見る気にならなくなった。
その変わり、この半年のちょっとした変化として、家事を手伝う様になった。
流石に有り余る時間を何も問わずに居てくれる両親に対して、世話になるのが気後れしてきたのもあったが、やってみると、逆に毎日のリズムと繰り返される家事の大変さが、実多果には良い刺激として、気晴らしに丁度良かった。
記憶を無くす前は決して自らする事は無かったらしい。母はそこを不思議がりながら優しく微笑む。
それも実多果の胸に小さな傷みを与えているのを知るよしも無いのだが。
実多果は今夕飯の支度は既に済ませ、父の帰宅を待つ食事までの合間に、気になっていた読みかけの小説の中間部を読んでしまいたかった。
ドアをノックする音が聞こえ、実多果の母の声がページをめくる手を止めた。
「実多果……電話よ?」
それだけで一瞬の警戒感が漂った。
実多果に電話してくる相手は高校までの同級生や友達しかいないが、疎遠にしていたため、最近はよほどでない限りかかってこない。
そしてそうなるべく昔の友達と関わりたくない本音は、実多果が高校からドロップアウトした事実と、記憶の無い後ろめたさがそれを助長させていた。
知らないものは話せないし、ましてや知らない友と名乗る人物と話すのは正直背筋がざわついた。
誰からか……どう返事をすればいいか……若干の緊張を持って枕元の電話の子機
を実多果は取った。
「はい?」
しかし電話の相手は実多果が想像した誰とも違っていた。
【2020.5.23 Release】TO BE CONTINUED⇒
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