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Story&Illust by 森晶緒
“Star-Filled Sky” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

<Dream-12> 再訪

 そうやって、いつもの様に部屋に向かって上がるエレベーターに乗りながら、美頬は事務仕事で張った肩を思いっきりグリグリ回すと、流石に疲労だけは我慢できずに心底疲れた様子で

「ウ゛アー………あー疲っ」

 そう独り言を唱えながら、買い物袋を持ったまま大きく腕を上に伸ばす。

 自分が会社でどう囁かれているか、既にその対象とも成り得なくなっているのか、美頬はとんと情報収集を避けて通って来たため、もはや知り得ない外部の人間よりも部外者扱いではあったが。

(そのため杉本の美頬への確執も、さほど興味のネタには成らなかった。ただ社交性が欠如している美頬を、生理的に杉本が嫌っているとの見方が定着していたためもあったのだが。)

 それでも仕事とは疲れる様に出来ていて、よほど同僚からはストレス知らずに見えていたとしても、そこはやはり帰宅した安堵感から、頭皮をグシャグシャと片手でマッサージして、美頬は自宅の部屋へと続く廊下をとろとろと気を抜いてゆっくり踏みしめて欠伸をしながら進んだ。

 しかし、ボサボサになった髪でふと気付くと、美頬の部屋の玄関前の壁に寄り掛かっている少女が眼に写る。

 誰かと思う間も無く、その明るい透ける様なオレンジの爆発ヘアーで、美頬を待って居たのが実多果だと認識できた。

 美頬は…別に驚きも気にする様子も無く、慣れた調子で気楽に挨拶する。

「……今晩は」

 逆に恐縮している実多果は、軽く頭を下げる。

 美頬に招き入れられて、部屋の客人となった実多果は、リビングの小さな足の短い折り畳みテーブルの前で、まだ恐縮しながら正座していた。

 美頬も、実多果の対面に足を崩して座り、二人の前には美頬が煎れた簡易ティーバックのハーブティーが、季節外れでもホッとする温かな湯気を昇らせて置かれている。

 先程から、実多果は気まずさから出されたお茶に口を付けては手を引っ込め、モゾモゾしては又お茶に口を付けては手を正座の膝上で固く握る機械的とも見えるぎこちない動きを続けていた。

 美頬は対照的にゆったりとティーカップに口を付けると、ホーッとこの時とばかりに息をつき、落ち着かない実多果の様子は見て見ぬふりで口を開く。

「随分早いじゃない。来るの」

 実多果は一瞬カップを持ったまま手を止めて、眉間に皺が寄ると訝かしんでしまうが、自分の今この時の来訪が、予定されていた3度の夢見の2回目だと言う事を初めて認識すると、慌ててカップをソーサーに両の手でなるべく慎重に素早く置き、置いたカップを持ったままの姿勢で、申し訳無さそうに俯きボソボソと謝罪する。

「予約しないのに……いきなり来ちゃってすみません。
 ストーカーみたいなマネ………」

 美頬は実多果の弁解にも動じずに、ケロッとして口の端で笑顔を見せる。

【2020.4.11 Release】TO BE CONTINUED⇒

 

 

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