<Dream-10> 杉本
昼時、そこは美頬の勤める会社だった。
創業80年、中堅どころとも言える酒造会社の総務に美頬は勤務していた。
スピーカーから音楽が流れ、昼の休憩時刻を告げると、社員は皆各々昼休みの準備に入る。
その殆どは外食主義の社員で、会社の近くには食事の席を設けた美味しく安いお弁当屋やデリカテッセン、安価で旨い手打ちうどんの店なども、不況にも心強く豊富に揃っていた。
例に漏れず外食しようと、さっさと総務の部屋を腕組みしたまま出て行こうとしていた杉本に、後ろを付いて行く新入社員の橘が呼び止めた。
「あ!あの!杉本先輩?」
立ち止まり振り返った杉本は、細面のキレイな顔立ちで、切れ長の目が印象的だった。
もちろんその容姿だけが理由では無かったが、女性社員からの人気も上々だ。
人付き合いは派手では無かったが面倒見が良く、今年度の若手の中でもマイペースが売りのちょっとお調子者の橘にも、自分とはタイプが違えど気を配って仲間として受け入れていた。
なのでしばらくは橘と昼を取る事が常にもなっている。
ただ、杉本自体に上昇志向があるのか無いのか、上司とは付かず離れずが主で、この会社の出世コースでもある華やかだが重圧も激しい部署からは既にドロップアウトして、経験と社内業務を把握させる目的で部署を回る新人とは一線を画し、比較的穏やかな雰囲気のここ総務に陣取っていた。
働きざかりで有能さも端々に見えるため、杉本の人材は社内で惜しがる声もあったが、杉本本人はそれを気に病んではいなかった。
現状維持、それで満足なのだ。
杉本は橘に呼び止められ、ふざけて眉間に皺を寄せると橘に聞き返した。
「?何だよ?」
橘はかなり言い出し難そうではあったが、思い切って切り出した。
「あのー……たまにそのー……
ランチ平(ひらい)先輩とかって誘ってみません?」
途端に杉本の顔からふざけた気軽な明るさが消え失せ、怪訝な表情と声になる。
「………美頬をか?」
「それ!!平さんの事名前で呼べるのなんて、
杉本先輩位しかいないじゃないっすか」
「………それがどうした。ただの同期だ。
何で美頬なんて誘いたいんだよ?
あいつと飯食ったって、クソ面白くも無くて、消化不良起こすだけだ」
杉本には珍しいあからさまな嫌悪の態度に、既に承知していた橘は見て見ぬふりをして続けた。
「いやあ、何かね、気になりません?」
と、席についたまま、早々に出勤前にコンビニで買い込んだ菓子パンと野菜ジュースのパックを机の上に広げて、菓子パンにかじりついている美頬の方を伺う橘。
「……だからどこがあ?」
態度も露わに杉本がイラつくと、橘も流石に気を遣って、早口で説明する。
「だって、ほら……よっく見るとかなりの美人ですよ?
スタイルも僕が見たとこじゃ多分社内No.1なんじゃないかと」
「おまっ……仕事も覚えきらない内から何を見てんだよ」
そう呆れ切って思わず杉本は気色ばむ。
【2020.3.28 Release】TO BE CONTINUED⇒
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