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Story&Illust by 森晶緒
“Star-Filled Sky” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

<Dream-08> 合鍵

 現状が把握できず、ただただ見慣れぬ部屋の様子に実多果がボーッとしていると、突如横から叫び声が上がる。

「あー!!」

 叫び声にビクウッとなり実多果は体を固めて声の方に視線だけ送ると、壁掛け時計を見て慌てまくる、ウィッグの取れた純黒髪ショートヘアが寝癖でグシャグシャになった美頬の姿が視界に飛び込んできた。

 拍子に昨夜の記憶が実多果にも蘇り、この部屋が誰のものかも理解した。

 美頬は実多果に気付いていないのか、ひたすら慌てまくって怒鳴りながら、

「寝過ごしたあ!!誰だ!?目覚ましかけ忘れたの!?
 あ!!あたしか!!ヤッバイ!!シャワー浴びる時間無いっ!!
 ええい!!髪固めてごまかしちゃえ!!」

 と頭をクシャクシャっとかきむしり決断すると同時に、ハッとして呆然と美頬を見つめる実多果の存在に気付く。

 美頬は瞬時に動きを止めて冷静さを取り戻すと

「……見たわよ」

「え?何を……」

 突然の美頬の宣言に、何のためにこの部屋に来たかは忘れ切っていた実多果は困惑する。

 が、そんな実多果に構っている暇は無いと、美頬は掛け布団の上に落ちているウィッグを片付けようと手早く拾い上げながら寝床から立ち上がると、それでもついでと言った口調で

「でも初めてのシンクロだったから、
 寝覚めの方ちょっとしか見らんなかったわ……」

 と、又時計の時間に気を取られて大慌てで、

「ああ!!そんな事より時間が!?」

 そう叫ぶと脱兎のごとく出かける準備に隣の部屋へと飛び込んで行ってしまう。

 布団も敷きっ放しで、猛スピードでグレイの簡素なスカートスーツを着込み髪はワックスで固めて、どうにか仕事にでかける体裁を完了させた美頬が、もう部屋を出て行こうとしている。

 実多果はまだ布団の中に座ったまま、まんじりともできずに早業で動いていた美頬をただただ目で追っていた。

 出かける……と思った瞬間、美頬は部屋から玄関廊下への入口で立ち止まると、振り向き様に、端っこでどうしていいか分からず布団の上掛けを膝に押し付け、ちょこんと正座している実多果に向かって

「じゃあ、あたし会社だからっ。
 帰る時その合鍵で玄関ドア閉めて、鍵はドアの新聞ポストに入れといて」

 そう言われて初めて、先程の素早い出勤準備の合間に、もののついでの様に手渡されて、今は実多果の握り締めた手の中にある合鍵に気付き、手を開いて呆然とその鍵を見つめて実多果は

「…はい…」

 小さく返事をするので精一杯だった。

 その実多果の余りにも呆然とした様子をくみ取ってか知らずか、美頬が付け加える。

「ああ、それから…」

【2020.3.14 Release】TO BE CONTINUED⇒

 

 

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