岸波通信その156「明日への扉」

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Present by 葉羽
「Quicksand」 by Blue Piano Man
 

岸波通信その156
「明日への扉」

1 自分より可哀想な人

2 あきらめの人生

3 人間の真の強さ

4 明日への扉

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  The Door to tomorrow 【2017.11.12改稿】(当初配信:2009.1.7)

「才能のまたの名を努力と呼ぶのだ」
  ・・・「橋本先輩の人生ノート」より

 自分の人生を真剣に考えようとしない息子に怒りを覚えたことがあります。

 しかし、実はその時、彼自身も進むべき道が見い出せず苦悩の中にあったのです。

 そんな時、親はどのようなアドバイスができるのか?

ローマ

(「橋本先輩の人生ノート」より)※画像は本文と特に関係がありません。

 自分の人生を振り返ってみると、何度か“目から鱗”が落ちた経験をしたことがあります。

 それは、尊敬できる教師であったり、信頼できる友人であったり、思わぬ経験がきっかけであったりしました。

 でも、“親の意見”が成長のきっかけとなったことはありませんでした。

 何故なら、自我の芽生えや成長というものは、往々にして、最も身近な親の意見を否定するところから始まるものだからです。

 なら、どうすれば?

 

1 自分より可哀想な人

 親の意見が無駄ならば、いっそ息子自身で気づけるように、そのきっかけを与えればいいのではないかと考えました。

 そして思いついたのが、ボランティアです。

 今は遠い昔、義理の妹が生まれながらの重い障害を抱えていたことから、学生時代から、そういった施設や人々との交流がありました。

フィレンツェ

(「橋本先輩の人生ノート」より)

※画像は本文と特に関係がありません。

 自分自身としては、その交流の中から様々なことを学びました。

 特に、彼らから見れば“何不自由ない条件”に生まれついた自分が抱えている悩みの何とちっぽけなことか…。

 そこで、その頃の自分と同じ年代になった息子に、障害者施設でのボランティア活動を勧めたのでした。

 

2 あきらめの人生

 妻から、アルバイトの家庭教師先で困っているという相談を受けました。

 その中学生になる娘さんは、モノの見方・考え方や自分の意見をはっきり言えることから、とても頭がいいはずなのです。

 しかし、一向に学校の勉強には身が入らないし、いつも表情が暗いと…。

 そこで、以前、息子に採った方法を勧めようとしました。

 つまり、“もっともっと可哀想な人もいる。何不自由な状況もないのに、自分だけのちっぽけな悩みに捉われてはいけない”と言えばと。

 ところが…浅はかな考えに恥じ入る結果となったのは、むしろ自分の方でした。

 中学生の彼女が抱えていた悩みは、自分自身の“重い障害”そのものだったのです。

ドイツ/フュッセン

(「橋本先輩の人生ノート」より)

※画像は本文と特に関係がありません。

 仮にここで一生懸命勉強したところで、どうせ人並みの生活はできないのでないか?

 まして、恋や結婚や幸せな家庭を持つことなど…。

 彼女の追い詰められた心は、その想いで、自分自身の可能性さえ閉ざそうとしています。

 多感な思春期に、自分のハンデと向き合わざるを得ない苦悩は想像に難くありません。

 憐れみや言葉だけの慰めなど、少しの解決にもならないでしょう。

 僕は、一瞬立ちすくむと同時に、今更ながら自分の驕りに気づきました。

 自分が学生時代に出会った障害者の人たちは、少しも暗い表情を見せませんでした。

 いろいろな不安や苦悩をきっと抱えていたはずなのに。

 そんな彼らに対して、“自分はこの人たちに比べればずっと恵まれている”という誤った『優越感』や『安心感』を得ただけではなかったのか?

 何と不遜なことでしょう。

 むしろ、どんな境遇にあっても夢を失わない強さ、どんな時も他人への笑顔を忘れない優しさを学ばねばならなかったのに…。

 

3 人間の真の強さ

 昨年10月6日付け毎日新聞の文化面に、「人間の真の強さ」という記事がありました。

 東京大学先端科学技術研究センターの福島智教授のことを書いた話でした。

 福島教授は、生まれた時には五体満足でしたが、次第に視力を失って失明したばかりか、14才頃から聴力も衰え出し、成人前には視力と聴力を完全に喪失してしまうのです。

 自分の声さえも聞こえない漆黒の闇と無音の世界。

 病魔によって、最後のコミュニケーションの手段を“真綿で首を絞めるように”奪われて行く逃げ場のない恐怖感。

 それは、人間として生きられる尊厳の“緩やかな死”そのものではなかったか。

セッティニャーノ

(「橋本先輩の人生ノート」より)

※画像は本文と特に関係がありません。

 そんな絶望の渕に沈もうとしていた彼に、新たなコミュニケーションのすべを与えたのはその母親でした。

 母親は、自分の指で直接、息子の手のひらに点字の形を作って押し当てる「指点字」という方法を考案したのです。

 彼に差し伸べられた一筋の光。

 その「指点字」を理解することで、母親ばかりでなく、やがて他者との絆をも回復して行きます。

 そして、そこから奮起して大学へと進学、やがては教授にまで到達するのです。

 何と言う強靭な精神力でしょう。

 あきらめてはいけない…どんなに絶望的な状況になろうとも、決してあきらめてはいけないのです。

 夢を持ち続けることの大切さ~そんな人間の真の強さを教えてあげなければ…。

 

4 明日への扉

 自分の障害に悩む中学生の彼女ばかりでなく、現代日本の多くの若者たちは、多かれ少なかれ自分の人生や将来に不安を感じているのではないでしょうか。

 いいえ、現代の若者ばかりでなく、いつの時代の若者たちも、きっとそうだったはずです。

 そんな悩める若者に、明日への道標を示せるは、やはり人間そのもの。

 様々な困難を乗り越えながら夢を実現した偉大なる先達たちです。

アムステルダム

(「橋本先輩の人生ノート」より)

※画像は本文と特に関係がありません。

 別に「偉人」である必要はありません。

 そんな人たちは、スポーツの世界にも、芸術の世界にも、そしておそらく…よく見渡せば身の回りにだっているかもしれません。

 逆に、身体に障害を抱えながら「偉人」となった人々もたくさんいます。

 三重苦のヘレン・ケラーはもちろん、幼少時の火傷で左手指が癒着していた野口英世、難聴の発明家エジソン、小児麻痺の後遺症で車椅子の大統領F・ルーズベルト、精神障害を抱えていたレオナルド・ダ・ヴィンチ、アインシュタイン、ウォルト・ディズニー、ダスティン・ホフマン…。

 夢を見失った若者たちの“明日への扉”は、決して“自分より可哀想な人”に気づかせることでは開かれません。

 それで“自分の優位なポジション”を再認識させることはできるでしょうが、“今、現に突き当たっている壁”を越えるための道標とはならないからです。

 今、人生に悩めるすべての若者たち…

 困難を克服して夢を実現した人に学び、夢を持ち続けることの大切さを実感してほしいと思います。

 

///end of the “その156 「明日への扉」” ///

 

《追伸》

 “悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。好きな言葉であり、ある哲学者の言葉です。”

 支持率が低迷し、政局運営も混迷を続ける麻生総理ですが、1月4日の総理年頭記者会見ではいいことを言いいました。

 確かに、普通であれば、楽観主義者というものは“現実をよく見極めもしないで安直に考えている人”というように、否定的なニュアンスで使われることが多いですが、この解釈の方が深いと思います。

 そう言えば、映画「ハッピーフライト」で、絶対絶命の危機に陥った旅客機の機長がうろたえる新米パーサーに向かって「こういう時は、まず笑え」と言うセリフがありました。

 悲観するだけでは、何も乗り越えられませんものね。

 で、この言葉…調べてみると、フランスの哲学者アランが「幸福論」の中で書いていた言葉。

 さらによく読むと、この後は次のように続きます。

 「成り行き任せの人間は、気分が滅入りがちになる」

 うむぅ…

 内閣支持率が急落するや否や、公言していた「解散」をいともあっさりと翻すような人は、やはり気分が滅入ってしまうものなのでしょうか?

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

ピエタ像

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To be continued⇒“157”coming soon!

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