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「Glidin'」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2015.8.7】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 未来を取り戻せ。

 『ターミネーター:新起動/ジェニシス』の上映初日、ケイコとともに観てまいりました。

 シリーズとしては第5弾、シュワルツェネッガーの出演としては第4弾、ジェームズ・キャメロンの演出としては第3弾の作品でございます。

 いやぁ・・制作が発表されて以来、高まる期待と共に一抹の不安が頭をもたげたのもまた事実。

 というのも・・・

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 シュワルツェネッガーが主演を降りた前作「T4」は本当に脱力ものでした。

 シュワちゃんは2003年に「T3」が公開された直後にカリフォルニア州知事に就任したため主演の続行は不可能に。

 代って新登場のキャラクター、マーカス・ライト(サム・ワーシントン)が主人公となり、ジョン・コナーと協力してジョンの父親(となるはず)のカイル・リースをスカイネットの魔手から救い出すというミッションが中心に据えられました。

 しかし・・・

 “劣勢に立ったスカイネットが起死回生策として反乱軍リーダーであるジョン・コナーの先祖を、時を遡って抹殺を図る”という組み立ては踏襲されているものの、『審判の日』が違うなど、前作までのストーリーとは繋がっておらず、設定だけ生かした全く別の作品。

 また、様々なタイプのターミネーターを送り込んで主人公側と戦わせるのですが、いかにも『質より量』という安易なつくり。

 さらに、超大型ターミネーターである“ハーベスター”との決戦シーンを中盤に持ってきて、それ以降、終盤までに出現する敵ターミネーターがどんどんチンケになるという致命的なミスを犯しました。

ターミネーター4

(C)2015 PIA Corporation. All Rights Reserved.

 こういうことをしてしまうと、「T3」のサラ・コナーが声だけ出演するとか、シュワルツェネッガーを顔だけCG再現してチョイ役で出演させるとかの小技は、偉大なるシリーズの『七光り』を狙った姑息な手段としか思えません。

 当のシュワルツェネッガーも知事退任後に、Collider.comのインタビューで新たなターミネーター映画に出演するかどうか問われ、「僕はすべてにオープンでいる。『トゥルーライズ』でも『ターミネーター』でもね。だが、しっかり作られた『ターミネーター』でなくちゃ……前作(T4)はひどかったからね。一生懸命やっていた。役者も、そのほかすべてね。彼らが努力しなかったわけじゃない。ただ、うまく行かなかっただけだ。」と論評・・忸怩たる思いがあったようです。

 そもそも、その前作「T3」についてもシリーズの生みの親・ジェームズ・キャメロン監督が設定や演出に激怒したとの話が報じられており、ターミネーター・シリーズはかなり迷走気味。

 低予算にも関わらず世界に衝撃を与えた「T1」や、液体金属のターミネーターT1000の造形など、当時としては革新的な映像を世に送り出しシリーズ・ナンバーワン・ヒットとなった「T2」はまさに金字塔。

 シュワルツェネッガーが主演復帰した今回の「T5」が引き継ぐのは「T4」なのか「T3」なのか・・それとも「T2」なのか。

 さて、その結論は・・・?

 

 「T5」のオープニングは『審判の日』が起こった1997年。

 人類に反乱を起こしたコンピューター・ネットワーク「スカイネット」によってあらゆる軍事施設がハッキングされ、世界各地から核ミサイルが射出されるシーンに、カイル・リースの独白がかぶります。

 この時、ジョン・コナーの父となるカイル・リースはまだ10歳の少年。スカイネットの手先となる汎用型ターミネーターT-700(骸骨型)に襲われ、あわやのところでヒーロー登場・・・え、何? この人ジョン・コナーでしょ。何で!? ~という冒頭から不思議シーン。

 結局、ジョン・コナーに命を救われたカイル・リースは、彼(ジョン・コナー)についていくことになり、やがて反乱軍の中核戦闘員にまで出世します。

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 その後、ジョン・コナー率いる反乱軍とスカイネットの死闘は何年も続き、じりじりと挽回した人類側は、最終決戦となるロサンゼルスにあるスカイネット本拠地への総攻撃を実行します。

 ターミネーターとの壮絶な戦闘を経て、基地最深部に突入したジョン・コナーらは、そこで時すでに遅く、過去へ向かって暗殺ターミネーターが転移する場面に遭遇。

 スカイネットの目的は、反乱軍リーダーであるジョン・コナーの母親(サラ・コナー)を過去にさかのぼって抹殺し、自分たちの敗北を“無かったこと”にすること。

 「誰かが過去に行き、ターミネーターの暗殺を阻止しなくてはならない」

 もちろん、ここで志願するのはジョン・コナーの右腕となっているカイル・リース。(ジョンは母親サラ・コナーから聞いて、ストーリーを知ってるってことか。)

 ははあん・・・なるほどコレは、第一作「T1」に繋がるんだな。つまり、あの「ターミネーター」ファースト・シーンの前に、未来で何が起こっていたのか描いているワケだな。

 するってえと、このカイル・リースが過去でサラ・コナーと出会い、彼女とメイク・ラブしてジョンの父親になる・・・あ! これって既にタイム・パラドックスじゃないの!?

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 ~と、当方の戸惑いを気にもかけず(←当たり前だ)、転送装置に乗り込むカイル・リース。そして転送が始まる・・・しかぁしっ!!

 カイル・リースは、転送に入って意識が飛ぶ寸前、突如出現したターミネーターがジョン・コナーを殺害しようとするシーンを目の当たりにする! ・・・しかし、もうどうすることもできない。

 あれれれれれ。いったいどうなっちゃうんだよ、このストーリー?

 ~と、「T1」の前日譚を描きながら、しっかりと新たな謎も提示してくれる辺りはグッド。

 一方、先行したシュワちゃん(悪役の方)は「始まりの時」である1984年にワープして、不良グループから着衣やサングラスをゲット。(このサングラス、ちょっとお笑いが入っています。)かくして、若きサラ・コナーの居場所を突き止めて抹殺しに向かう。

 追いかけるカイル・リースも、まずは衣服や靴を入手するため洋品店へ急行。その直前に出会った警官・・・あ!イ・ビョンホンじゃないの!? なんでこんなチョイ役を・・・なワケないか。

 悪役シュワちゃんの方(顔がかなり若い)はサラ・コナーを急襲。おいおい、間に合うのかカイル・リース・・・と思った刹那、悪役シュワちゃんを撃退するヒーローが登場!

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 いったい誰だよ、と思いきや何とそれは「T2(良い方)」のシュワちゃんではありませんか。え、なんでなんで!??

 「待っていたぜ」・・って、いったいどうなってるんだよ、おい!

 サプライズに継ぐサプライズな進行。もうすでにどんでん返しが止まりません。

 この(良い方)ターミネーターは、サラ・コナーがさらに若かった時代に未来から送り込まれ、ずっと彼女を守ってきた。

 (サラからは「おじさん」と呼ばれている。送り込んだ人間は明かされていない。)

 そして、この1984年に未来からターミネーターが送り込まれてくることを知っていて、備えていたという事のよう。

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 「おじさん」と呼ばれているだけあって、こちらは中年のシュワちゃん。それが、「T1」の若いシュワちゃんと格闘を始めます。

 (観ているこちらはワクワクドキドキ。)

 ま、良い方シュワちゃん(おじさん)が勝利するのはお約束・・ということで、気になるのはカイル・リースの方。

 もう、役目は終わっちゃったよ・・てか、さっきのイ・ビョンホン、誰?(見当つくけど。)

 案の定、イ・ビョンホンは正体を現し、ターミネーターとなってカイルに襲いかかる。

 助けに入ったのは・・・何とサラ・コナーじゃないの。役割が逆になっちゃってるよ。

 拳銃で撃ち抜かれるビョンホン・ターミネーター。すると・・グニャグニャって、あら~「T2」の液体金属ターミネーターじゃありませんか。

 うわーどうなっちゃううんだ、このストーリー!?

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 このように、「T1」に繋がったストーリーからは、前作までの設定が全て覆されています。

 『期待を遥かに超える大どんでんがえし。必見の作品だ!!』(ジェームズ・キャメロン)というのはこの事か。さすが「T1」・「T2」の脚本を書いた人。彼でなくては書けない筋書き。

 激闘の末、悪役シュワちゃんとビョンホン液体金属ターミネーターを相次いで倒した三人組、これで終わっちゃうのではと思いきや、『審判の日』は先送りされているだけだと。そして、おじさんシュワちゃんの役目はもう一つ。

 折につけ「もう合体したか?」とカイル・リースに問いただす。どうやら、サラ・コナーとメイクラブさせて、未来のジョン・コナーを間違いなく誕生させる密命も帯びているらしい。(という事は、彼を送り込んだのは、やはりどこかの時代のジョン・コナーか?)

 『審判の日』を止めるために、カイルとサラの二人は、密かに開発を進めておいた転送装置を使って“未来”へワープすることに。(おいおい、そこにもその時代のカイルとサラが居るんじゃないのか?)

 一方、おじさんシュワちゃんはと言えば「自分は生体組織が壊れているので転送器に乗れない。その時代で待っている。」と。そんな設定あったっけ?・・てか、どうやって最初にワープできたんだよ!

 と、謎は謎を呼ぶものの、当方の危惧などお構いなしに、二人はギュイーンとワープを開始する。あらららら・・。

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 いろいろ細かい疑問はあるものの、観て思ったのは「やはりターミネーターはシュワちゃんの映画である」と。

 「T4」では新たな主人公を据えて新シリーズを始めようとしたのが見え見えですが、ファン心理としては、シュワちゃんの出ないターミネーター・シリーズはあり得ないというのが本音でしょう。

 その事は「T4」の散々な興行成績も証明していると思います。

 シュワちゃんもまた本人が言うように、この「ターミネーター」(と「トゥルーライズ」)に格別な思い入れがあるようですし・・。

 ブルース・ウィリスの「ダイ・ハード」シリーズでも、最後の五作目となった「ダイ・ハード/ラスト・デイ」では世代交代を図るべくジョン・マクレーンの息子ジャックを登場させ、主なアクションシーンを代行させましたが、こういうやり方は誠に潔くない。(こちらの興行成績も惨憺たるもの。)

 やはり、俳優の看板シリーズというものは、その主演俳優と命運を共にすべきなのです。

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 今回の「T5」とこれまでの作品との繋がりはどう捉えればいいのか?

 大きな設定は従来の組み立てに則ったものになっている~すなわち、①コンピューター・ネットワーク(スカイネット)が“意思”を持ち、人類を敵と見なして核戦争を勃発させる(『審判の日』)②生き残った人類がジョン・コナーを盟主として反乱軍を組織する③スカイネットは人型兵器ターミネーターを量産し反乱軍に戦いを挑む④反乱軍がスカイネットを追い詰め、スカイネットは完成させた時空転送装置(タイムマシン)でターミネーターを過去に送り、少年時代のジョン・コナー(あるいはその両親)を抹殺して、人類反乱を無かったことにしようとする。⑤人類側は別の誰かを過去に送り抹殺を阻止する~を踏まえています。

 ところがいずれの場合も、ターミネーターの部品など未来の技術が過去に残されたため、それをもとに誰かが新たな「スカイネット」や「ターミネーター」を開発してしまうのです。

 『審判の日』はずれることはあっても必ずやってくる~つまり、常に堂々巡りとなっています。

 ターミネーター・シリーズというのは、同じ設定を活かしたリメイクあるいはリブートと評されることもありますが、そうではなく、『何周もしているパラレル・ワールド・ストーリー』と捉えることもできるでしょう。

 しかし・・・

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 その『構造』に気づいてしまうと、いかに目先を変えようが、観客はストーリーの『先読み』ができるので、新鮮さは回を重ねるごとに失われます。

 それを避けるために、敵方のターミネーターはどんどん強力なモノになっていますけれど、いかんせん想像の延長上。

 最強のターミネーターは、「T2」のT-1000型、液体金属のターミネーターであって、このインパクトを超えるのは難しい~少なくとも今回の「T5」まで含めて成功していない~と思います。

 今回の敵方ターミネーターは、ジョン・コナー自身がスカイネットに改変されたT-3000となるワケですが、見た目や機能は「T2」のT-1000と同じに見えてしまいます。むしろ、『磁力に弱い』ということで劣化しているかもしれません。

 つまり、ストーリーの袋小路と同様、ターミネーターの強力化も壁にぶつかっているのです。

 「T5」のタイトル『新起動/ジェニシス』は、新たな三連続シリーズの第一作と位置づけるためのもので、エンド・ロールの後にも「またまた繰り返すぞ」というショート・シーンが加えられていましたが、これも観客には『想定の範囲』。

 僕は、最初の頃だけ熱中した『ひぐらしのなく頃に』の何周目かのラストシーンを見たような思いがしました。(無限輪廻パターン。)

ターミネーター:新起動/ジェニシス

(C)2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 ~と、いうわけで、序盤こそ新展開にハラハラドキドキしていたのですけれど、『無限輪廻パターン』が見えてくると、展開に対する興味は徐々に失われていきました。

 そのうえ、ジョン・コナーのT-3000ターミネーターは目新しくないし、そんなに強くないし、いろんなアクション・シーンも、結構どこかで見たことがあるようなものばかりでした。

 とは言え、過去のシリーズをあまり見ていない人ならば、十分に楽しめるのではないでしょうか。ビジュアル自体はかなり進化を遂げていますので。

 

/// end of the “cinemaアラカルト167 「ターミネーター:新起動/ジェニシス」”///

 

(追伸)

岸波

 あまりにも残念な結果だったので、書き終えてから(心配になって?)他のサイトの評価を見てみました。すると、Wikipediaには・・・

『批評家の見解は否定的なものが優勢となっている。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには196件のレビューがあり、批評家支持率は26%、平均点は10点満点で4.6点となっている。サイト側による批評家の意見の要約は「神話の沼にはまってしまった作品だ。『ターミネーター:新起動/ジェニシス』はテーマに深みが足りず、コンセプトに知性が感じられない。また、『ターミネーターシリーズ』の魅力であったスリリングな視覚効果も、この作品には欠けている。まるで不格好な再生タイヤのような映画だ。」となっている。また、Metacriticには、40件のレビューがあり、加重平均値は39/100となっている。なお、本作のシネマスコアはB+となっている。』(Wikipediaより転載)

 あらぁ・・やっぱりか。『不格好な再生タイヤのような映画』・・酷評ですね、これは。(そこまで言うか?)

 でも、根っからのシュワちゃんファンの僕としては、懐かしく拝見させていただきましたよ。若いシュワちゃん、中年シュワちゃん、(現在の)老年シュワちゃんが総登場ですもんね♪

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

ターミネーター:新起動/ジェニシス

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト169” coming soon!

 

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