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第30回ロンドン・オリンピックが7月27日に開幕した。

 8月12日まで熱戦が続くが4年に一度のスポーツの祭典だけにTVの前に釘付けになってしまう。

 深夜中継が多いので、冷房を付けっぱなしで観戦してウトウトし体調を崩してしまいがちなのが玉にキズである。

ロンドン・オリンピック

ロンドン・オリンピック

 回を追うごとにオリンピックは商業主義の弊害やドーピングなど、数々の問題を露見しており、手放しでそのスポーツマンシップを称揚するわけにはいかないが、それでもスポーツというものが根源的にもっている躍動感や感動というものは否定できない。

 今回のロンドン五輪は、第4回(1908年)、第14回(1948年)に続くもので、同都市で3回開催されるのは初めてのことだ。

 EUに加盟しながらいまだにポンド体制を保持して、ユーロ危機に揺れるヨーロッパ大陸を睥睨するグレイトブリテンのしたたかさを感じさせる今回のロンドン五輪である。

 各国の入場行進でも、イタリア選手団の公式ユニフォームはアルマーニ、アメリカ選手団のそれはラルフ・ローレンがデザインという具合に、業界関係者としてはなかなか楽しめたのだが、何と言っても、「英国の歴史」を描いたセレモニーが最大の見物だった。

 芸術監督として演出を担当したのは、「スラムドッグ$ミリオネア」(2009年)でアカデミー監督賞を受賞しているダニー・ボイル(1956年生まれ)。なかなか考えられた起用だと思う。

ロンドン・オリンピック開会式

ロンドン・オリンピック開会式

「スラムドッグ…」は、インドのスラム街出身の無学な青年がクイズ番組で次々に正解を続けるが、不正の疑いをかけられ警察に連行されるというストーリー。

 ボイル監督自身もランカシャー州の労働者階級の出身で、叩き上げで頂点を上りつめた苦労人である。

 ファッション界で言えば、配管工の息子だったジョン・ガリアーノが「ディオール」のアーティスティック・ディレクターになったり、やはりタクシードライバーの息子だったアレキサンダー・マックイーンが、ファッション界の寵児になったことなどを思い出させる(ガリアーノは飲酒暴言でディオール社を昨年解雇、マックイーンは一昨年に首吊り自殺)。

 こうしたブルーカラー出身だが才能ある人物を引き立てるような懐の深さが、イギリスのみならずヨーロッパにはあるのかもしれない。

 もちろん長引く不況は、貧富の格差をさらに拡大しているし、相変わらずイギリスでは、貴族社会が依然として、社会の中枢君臨しているのだろうが、歴史を変革するのはブルーカラーだというのが開会式の底流にあるように思えた。

女王陛下と007

女王陛下と007

 ボイル演出による開会式セレモニー「英国の歴史」は、まず農村風景に始まり、産業革命、二度の世界大戦での勝利、福祉国家の実現と続くが、いずれもブルーカラーの目から見た英国史になっているように見える。

 エリザベス女王が007とともにパラシュート降下する映像を流して、在位60周年のエリザベス女王の開会宣言につなぐ。

 さらにミスター・ビーンのローワン・アトキンソンのコント、シェークスピア俳優のケネス・ブラナーが「この不思議で賑やかな島」と英国賛歌の詩を朗読する。

 最後はやはり、ビートルズのポール・マッカートニー(その愛娘はデザイナーのステラ・マッカートニー)が「ヘイ・ジュード」を熱唱するという見事な段取りである。さすがに演劇の国である。

ポール・マッカートニー

ポール・マッカートニー

←開会式のトリで
ヘイ・ジュードを熱唱。

 前回の北京五輪(映画監督の張藝謀が演出。スピルバーグが芸術顧問)の開会式における経費110億円を費やした威圧的で若干皮相なパフォーマンスに比べるとなんともノーブルでユーモア(ブラックユーモアも含め)に溢れた出来だと思う。

 007、女王陛下、シェークスピア、ミスター・ビーン、ビートルズと続くと、胸の高鳴りを覚えてくるが、日本人は大変なイギリス好きの国民なのではないかと思えてくる。

 たしかにファッションの世界でもバーバリー、アクアスキュータム、ダックスのブリティッシュ・オーセンティックは日本人に異様なほど好まれている。

 ブリティッシュ・トラッドをベースにウィットに富んだファッションを提案しているポール・スミスにとって、日本は最大市場である。

MINI Paul Smith Limited

MINI Paul Smith Limited

 そうかと思えば、ヴィヴィアン・ウエストウッドのパンクファッションが人気なのは言うまでもないし、前出したマックイーンやガリアーノの先鋭的なファッションが、世界のどの国にも増して日本で多くのファンを獲得していたのを思うと、日本と英国の間に脈々と流れている親和性を感じずにはいられない。

 それにしても、ファッションの世界を取り上げてもそうだが、伝統と革新が違和感なく共存する英国という国は本当に「賑やかで不思議な島」なのだと感心する。

 開会式後に、ボイル監督の映画、「ミスター・ビーン」のDVD、ビートルズのCDが英国で爆発的に売れ続けていると聞く。

 日本でも同様の現象が見られると同時に、英国ファッションへの関心と需要が高まっていきそうな予感がする。

                

(2012.8.10「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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