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業界に面白い男がいなくなった。

 3月11日に発生した大地震は死者・行方不明約2万人に及ぶ大災害になった。

 その影響は当然3月、4月の消費市場に大打撃を与えたが、幸いにしてその後に関しては、さほど大きな影響もなく、落ち着きを取り戻しているようだ。

 しかし、大地震による福島原発事故は、未だに収束の兆しすらない。そればかりか、原発の是非をめぐる議論は、日本のみならず全世界に波及している。

大塚範一キャスター

大塚範一キャスター

 それから8ヵ月後の11月7日、フジテレビの大塚範一キャスターが急性リンパ性白血病に罹患し入院し、視聴者を驚かせたが、震災発生直後、現地取材や被災地産の野菜などを番組内で試食していたことが原因ではないかという憶測まで出る始末。

 放射能除染が現実味を帯びるなど、日本人の潔癖症というのも困ったものである。しかし、大震災後の8ヵ月を振り返ると、鬼籍に入ったファション関係者が異様に多いことに気付く。

(敬称略、年齢は享年)
3月28日 西田旬良(デザイナー西田武生の長男で西田武生デザイン事務所社長、52歳)
5月24日 谷哲二郎(ルミネ社長、61歳)
6月25日 安部兼章(デザイナー、57歳)
7月18日 田中和夫(三陽商会前社長、65歳)
8月9日 佐々木力(リンク・セオリー・ホールディングス社長、60歳)
8月13日 加藤佐知子(DY博報堂前雑誌局局長、44歳)
10月26日 時田麗子(資生堂ファッションディレクター、57歳)
11月4日 温井明子(講談社「グラツィア」元編集長、「ヴォーチェ」前編集長、52歳)

谷哲二郎氏

谷哲二郎氏

(ルミネ社長)

 ファッション業界関係者で私が親しくさせていただいたり、御挨拶したことがある方に限っても上記の如しである。いずれも、天寿を全うというには程遠い年齢なのが気持ちを一層暗くする。

 私には亡くなった著名人の点鬼籍をつけるという奇妙な習性があるので、手帳を繰ってみても、大震災後に亡くなった方の数が例年を大きく上回っていることに気付く。大震災との因果関係は明らかのように思えるのだが。

 もちろん、「お前がそういう年齢になっただけの話ではないか」という声も聞こえては来る。が、なんらかの形で大きなストレスになって生きようという強い意志を蝕んでいるように思えてならないのだ。

 死者の声ばかりでなく、生きる我々にしても、心の奥底の昏(くら)さを感じずにはいられない。それは、ひとつの時代の終わりなのか、はたまた終わりの始まりなのか。改めて死者の冥福を祈るばかりだ。

                

(2011.11.20「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)


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