「windblue」 by MIDIBOX


六本木で働くようになってからもう15年は過ぎている。まあ、六本木は東京の街の中では、この15年間で最も大きく変わった街だろう。

 15年前には六本木ヒルズ(2003年完成)、東京ミッドタウン(2007年完成)、新国立美術館(2007年完成)もなかった。

 ファッション業界にはあまり縁のない街だったが、六本木ヒルズに隣接したグランドハイアットホテルは、たぶん現在ファッション関係のパーティが一番多いホテルだろうし、最近は「ポール・スミス」の路面店が旗艦店として外苑東通りにできたり、その近くに3月オープンしたトライセブン六本木の1階&2階にはバーニーズ ニューヨーク六本木店がオープンするというから、今後はファッション・エリアとしても成長していくのかもしれない。

 ついでに言うと外苑東通りを青山1丁目の方に進むと「マシュマロ・ハウス」と呼ばれるウエディング界の女帝である桂由美ブライダルハウスが鎮座していて、外国人にことのほか人気がある。

 帳が下りてからのしつこい外国人客引きが多くて閉口する街というイメージは徐々に改善されているようだ。

 私のオフィスは六本木7丁目にあるが、これは六本木と西麻布と乃木坂に囲まれた場所で「奥六」とでも呼びたいような不思議なエリアである。

 「出雲大社の東京分祀を左手にみて坂を下りてミシュラン三ツ星の龍吟の近く」とか「星条旗通りの近くで、六本木トンネルを出てすぐ」と説明するより、「ホテル六本木」のハス向かいですと言えば、六本木に詳しい遊び人なら「ああ、あそこですか」と微苦笑まじりに分かってくれるはずである。

    

 この六本木7丁目で、「ARDBEG(アードベッグ)」というスコットランドのアイラ島で作られているシングルモルトのプロモーション・イベントが先月末あった。招待状には、会場は六本木7-8-6 AXALLとあるだけ。

 AXALL(アクソール)というのはどこなんだ?グーグルマップでこのあたりだろうと目ボシをつけると、不気味な風体の男が立っていて場所を教えてくれる。こんな体験型の宝探しイベントが流行った時代があったなあ。

道案内の怪しげな男

 外苑東通りから新国立美術館につながる緩やかな坂を下る。この坂には龍土町美術館通りという洒落た名前が最近付けられたらしい。水道管が破裂して水浸しになったことがある場所だ。

 坂の入り口には黄色い看板の「大八」という旨いラーメン屋があったが最近ついに取り壊しになった。

 そうこうするうちにAXALLを発見。このビルの地下には昔「LE GA(レジーア)」というクラブだかレストランがあった。

 巨大な水槽が売り物で、夜な夜な遊び人が屯していた。「熱帯魚が可哀想」などとカマトトどもが騒いでいたがどうなったのだろう。

 私がその熱帯魚の成り替わりだと言っても誰も反対しないだろう。

 今は、借り手を捜しているが、月の家賃が450万円だとかでなかなか見つからないので、こんな風にスポットで貸しているらしい。

アードベッグ・ナイト

 醸造所が海辺にあるから潮風の味がするというシングルモルト「アードベッグ」はなかなか美味だ。

(※右の背景画像:スコットランド・アイラ島のアードベッグ)⇒

 さらにスコットランド風のエピソードが盛りだくさんで、アイラ島とやらに行ってみたくなる。それも真冬がいい。

 いささか飲み過ぎたのがいけなくて、知り合いに会った勢いでそのままもう1軒。終電がなくなったからこの界隈でさらにもう1軒ということになった。

 歌でも歌おうかということになって「円盤」とかいう店にまた来てしまった。かつては某百貨店オーナーの御曹司がやっていたのだがすでに経営は変わっってしまったのか。

 とにかく六本木や渋谷で始発が動くまで時間をつぶす。

西麻布の「かおたんラーメン」

焦がしネギと化学調味料の絶妙のマリアージュが80年代風。

 店を出ると急に腹が減って、朝ぼらけの中に「かおたんラーメン」の文字を見つける。結構混んでいる。

 客はラーメンやら餃子を缶ビールで流し込んでいる。完全に30年前にタイムスリップしている。

 涙が出るほど懐しい味。これだけラーメン屋が林立すると「かおたん」のラーメンが旨いなんて言ったら笑われるが、80年代は「東京のうまいラーメン屋ベスト10」に選ばれたこともあるのだ。

 焦がしネギの甘味と化学調味料のエグミが泥酔した後にはなんともうれしい味なのだ。これは1980年代、バブルの味に違いないのだ。

 もはや懐旧を忌み嫌う年令でもないから、その悪魔のような味に思い切り浸ってみる。

 こんな馬鹿ができるのだから、私もまだまだ若い、と思う反面、こうやって死んでいくのかと思うとちょっとばかり哀しい。

                

(2016.6.23「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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