The Mysterious Moon
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
「月のしずく」は、映画「黄泉がえり」のテーマソング。劇中で紫咲コウが演じるカリスマ・ヴォーカリスト“RUI”のしとやかな歌声は、聴く者の心を魅了します。それにしてもロマンティックなタイトルですね。
「月」は太古の昔から、あまたのロマンをかきたてて来ました。
そして1969年7月、アポロ11号のアームストロング宇宙飛行士が月の“静かの海”に降り立ち、「月面への偉大な一歩」を標したその日から、月の女神“アルテミス”のヴェールの下の顔は白日の下に晒され、人類の「科学の勝利」を世界に印象づけるはず・・・でした。
しかしそれは、新たな謎の扉を開く「驚くべき一歩」になってしまったのです。
今回のanother world.では、二編連続で、最も身近にありながら、今もなお幾多の謎を秘め続ける「月」についての不思議を追います。
1 背面を見せない月
僕は昔から、月がいつも「同じ面を地球に向けている」ことが不思議でなりませんでした。貴方は不思議ではありませんでしたか?
中学校の時の授業でしたか、この「素朴な疑問」を先生や友達に聞いてみると、「当たり前だ、それは月の自転速度と地球を廻る公転速度が同じだからだ!」と、判を押したような答え・・・
確かに、教科書にはそう書いてある。
でも、問題はそのことでなくて、公転周期と自転周期が何万年・・・いや、もしかすると何億年もの間、少しもずれないで片面だけを見せているという、その「奇跡的な確率」のことなんですね。
でも、それ以上は誰も答えてくれない・・・。
1964年から、アポロ計画と並行してルナー・オービター計画による5回の月面探査ミッションが行われたことがありました。
その最後の探査機である「オービター5号」が月の周回飛行を行った際、月の「海」の部分に差し掛かると、何故か、探査機の機体が「月面に強く引っ張られる」という現象が起きたのです。
このような重力異常を示す場所は、現在では「マス・コントレーション(マスコン)」と呼ばれ、いずれも「海」の地域に12箇所が発見されています。
また、月の表側と裏側では、全く異なった様相を呈しています。
「海」と呼ばれる滑らかな平地は、地球に面した「表側」にしか存在せず、「裏側」は巨大クレーターが散在するゴツゴツした高地です。
「表側」にある海の一つ“危難の海”には、地殻の厚さが「ゼロ・メートル」、すなわち内部構造に直接つながっている場所がある一方、「裏側」の「コレロフ」と呼ばれるクレーターの北側は、何と107キロメートルに及ぶ厚い地殻に覆われているのです。
この「表面の様相の違い」に加え、「月の重心」は中心よりもかなり「表側」に片寄っているのです。
このような表と裏の「極端な地形の違い」や「重心のずれ」というのは、どうして生じたのでしょう?
2 月の起源~ジャイアント・インパクト
1980年代後半、惑星の形成理論が進んでくると、惑星形成の最終段階では、原始惑星同士の巨大衝突が生じた可能性が極めて高いことが分かって来ました。
現在の「惑星」と「衛星」がたまたま近い空間で、それぞれ冷えて固まったものという“過去の考え方”では、「衛星」が「惑星」の周りを廻っている理由、その「角運動を生じさせた力」が説明できないのです。
つまり、同時に形成された二つの星は、近接してありながらも、同じように太陽の周りを公転するはずだからです。
月の起源については、否定されたこの「同時生成説」のほかにもガリレオが唱えた地球からの「分裂説」や宇宙から飛来した天体を捉えたとする「捕獲説」などがあります。
しかし「分裂説」では、地表が吹き飛ばされるほどの“超高速自転”をしていたという証拠が見つからないこと、「捕獲説」では、後に衛星となる天体が、衝突もせず逃げられもしない“天文学的確率”の軌道で飛来しなくてはなりません。
太陽系の殆どの惑星にそうした“奇跡”が何回も起こったと考えるのはナンセンスであることから、こうした説は否定されて来ました。
現在、衛星の起源として定説になりつつあるのが原始惑星どうしの巨大衝突説“ジャイアント・インパクト説”です。
月の場合には、原始地球「エウリディケ」に、火星ほどの大きさ(地球の1/2程度)のもう一つの原始惑星「オルフェウス」が衝突し、衝突によって巻き上げられた岩石やマグマの残骸が冷えて集積して「月」を形成したとされています。
(←「エウリディケ」は、ギリシャ神話に登場する竪琴の名手「オルフェウス」の妻の名前。)
2001年の8月に、米国のサウスウェスト研究所とカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究チームが、この説に基づくコンピュータ・シミュレーションを完成させ、「月」が形成されることを実証して見せました。
このシミュレーションでは、当初「月」が形成されたのは、現在より遥かに近い軌道上で、地球の自転も月の公転も速く、次第に月は地球から遠ざかりながら、お互いの重力摂動(潮汐力)によって回転を遅くさせました。
Episode6 「地球の長い午後/前編」で書いた地質学の研究成果とも一致します。
「月」は現在も一年間に3.5センチメートルずつ地球から遠ざかっており、その影響によって、地球の自転は一世紀に約1.48ミリ秒ずつ遅くなっているのです。
3 「エウリディケ」最後の日
米国のドキュメンタリー専門チャンネル「ディスカバリーチャンネル」では、約40億年前に起こったこの「巨大衝突」をコンピュータ・グラフィックスで再現し、放映しました。
タイトルは“If we had no moon”です。
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If We Had No Moon
(ディスカバリー・チャンネル)
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この番組では、原始地球「エウリディケ」も衝突惑星「オルフェウス」のいずれもが水を湛え、生命に溢れた惑星として紹介されています。
ただし、原始地球に生命がいたかどうかは確認されていません。この部分は番組の創作です。
しかし、もしも存在していたとしたら・・・。
二つの太古の楽園が「巨大衝突」によって、完全に「白紙に戻される」という非常に悲しいロマン、そして魅力的な設定が心を捉えます。
いったいエウリディケ、そしてオルフェウスの世界には、どのような生物が暮らしていたのでしょう?
そしてまた、その生物たちは、世界最後の日に天空から接近してくる巨大な惑星をどのような想いで見つめたのでしょう?
ロマンは尽きません・・・。
「巨大衝突説」は、現在、アカデミズムに広く受け入れられていますが、これで「月の起源」が説明できても、先にお話ししたような数々の謎~「背面を見せない理由」、「海の重力異常地帯(マス・コン)」、「表と裏の極端な地形の違い」、「重心のずれ」などは説明できないのです。
このことを解明するためには、「衛星」として再形成された「月」をもう一度襲った『カタストロフィー(大破局)』を考えなくてはなりません。
4 「宇宙的災厄」の真実
アポロ12号は、謎に満ちた月の内部構造を明らかにするために、使用済みの月着陸船を月面に落下させ、故意に「地震」を発生させて、地殻内に震動が伝わる様子を観測しました。
すると、発生した地震の広がり方は、地球の「地震」のパターンとは全く違い、最初の「小さな震動」が「共鳴」するようにどんどん大きくなっていき、終いには、月全体が「鐘のように鳴り響く現象」が3時間以上も観測されたのです。
この観測から、月の構造は「鐘」のように、内部が「空洞」に近い状態であるのではないかと考えられるようになりました。
この「月内部の空洞」の発見が「月の謎」を解く『重要な鍵』だったのです。
実は、月の海で「重力異常を示す場所(マスコン)」にあったのは、非常に重い物質である「レアメタル」・・・多量のチタニウム、ジルコニウム、イットリウム、ベリリウムなどの“重金属類”で、本来、星の中心部の核(コア)にしか存在しない物質です。
つまり、月の「コア物質」が“何らかの理由”で地球に面する側の地殻を突き破り、その後、冷えて固まって、「海」を形成したと考えられるのです。
すると、重い物質が吹き出した「表側」に重心が偏っていることも説明できますし、月の内部はコアが失われて「空洞」になるわけです。
思い出してください。こうしてできた「月の形」、何かに似ていませんか?
下に「丸くて重い底」があって、上に「軽いとんがり頭」のある形・・・そうです、『起き上がりこぼし』です。
「重い底側」が地球の重力に捉われたため、月は『起き上がりこぼし』のように、地球に対して「常に片側」しか向けられなくなってしまったのです。
現在では、月ばかりでなく、木星の衛星・・・イオ、エウロパ、カリスト、ガニメデなどを初め、太陽系の多くの衛星が、「重心の偏り」のために主星に対して片側を向け続けていることが分っています。
しかし、月のように、「コア物質」を片面に吹き出させた極端な構造の衛星は見当たりません。
当然、月が一旦形成された後に「何か」が起きたというのが素直な考え方でしょう。
さて、それでは、「月の構造」を変えてしまったほどの宇宙的災厄とは、いったい何だったのでしょう?
残念ながら、現在の天文学、宇宙物理学では、この宇宙的災厄が何であったのかを突き止めるに至っていません。しかし、ヒントはあります。
この宇宙的災厄は、月以外の惑星にも大きな爪あとを残しているからです。
その「爪あと」というのは、今は消滅して火星と木星の間にリングを形成している「アステロイド(小惑星群)」です。
かつて、このアステロイドは、太陽系第五惑星『フェイトン』であったという説があります。
フェイトンは、ギリシャ神話の太陽神アポロンの息子。父アポロンから、一日だけ「太陽の馬車」を借り受けて乗り回すうち、軌道から大きく外れ、大神ゼウスの怒りの稲妻に貫かれて地上に落下して死んでしまいます。 |
第五惑星フェイトンを塵々に粉砕し、月のコアを破壊して表面に溢れさせるほどの災厄をもたらしたもの・・・
ここから先は「仮説」になりますが、この続きは「もう一つの月」の話題と併せて「後編」でご紹介しましょう。
/// end of the “Episode8「ミステリアス・ムーン」”
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《追伸》 2003.5.10
現在、久々の「講演」依頼を引き受けたので、パワーポイントの原稿づくりに追われています。
ついでに、昨夜、市内某所で出会った読者の一人、S参事から頼まれた企画物もありまして、これも調査を始めなくてはなりません。
はたまた読者の皆様からは、《読者限定版》「僕のラーメン道」の3を待望する矢のような催促。ちょっと、売れっ子になった気分です。
でも、Another world.も含めて、《読者限定版》が相次いでいるので、配信のない読者からは、「最近、書いてないのかな?」という誤解も受けそうです。
ま、ガーデニングも忙しい時期なので、そっちと思っているかな・・・?
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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