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《Web版》岸波通信 another world. Episode37

空飛ぶ車


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2009.11.19】
   (※背景画像は、空飛ぶ車「Skycar」)⇒

  The Frying Vehicle

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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“頼むから仕事をさせてくれ”

 漫画の神様・手塚治虫の最後の言葉だそうです。

 彼の死によって「グリンゴ」、「ルードウィヒ・B」、「ネオ・ファウスト」、そしてライフワークであった「火の鳥」が未完のまま残され、死の直前まで綴られた日記には新作のアイディアが書き連ねてありました。

 享年62歳。 まだまだ活躍できる年齢。

 その無念は、いかばかりであったか・・・。

鉄腕アトム

鉄腕アトム

←悪人の乗ったエアカーを攻撃するシーン。

 そんな手塚治虫が「鉄腕アトム」に描いた風景は、銀色の服を着た未来人が空中に張り巡らされたチューブの中を“空飛ぶ車”で自由に行き交う世界。

 多感な少年時代、その絵に触れた僕らの心には大きなトラウマが刻まれました。

“いつかは、この空飛ぶ車に乗ってみたい・・・”

 ということで、今回のanother world.は、“空飛ぶ車”という夢に挑戦した人々の話です。

 

 

1 飛行機から“空飛ぶ車”へ

“妻と飛行機の両方は養えない”

 インディアナ州東部にある小さな村の牧師の子として生まれたウィルバーは、弟オーヴィルと共に自転車屋で生計を立てながら、“動力を持った機械で空を飛ぶ”という夢に生涯を捧げました。

 当時の科学者たちが「機械が飛ぶことは科学的に不可能」と考える中、研究を続けるためには自分達の貧しい資金を用いるしかなく、二人とも生涯独身を貫いたのです。

ライト兄弟

ライト兄弟

(オーヴィルとウィルバー(兄:右))

 そして1903年、ノースカロライナ州キティホークの丘で、遂に二人は愛機『ライトフライヤー号』による人類初の動力飛行に成功しました。

 それから100年。

 人類は月に到達し、超音速ジャンボ機が大陸間を飛び交う時代となりました。

 二人の成功は、人類の大きな進歩の礎となったのです。

ライトフライヤー号

ライトフライヤー号

(by ライト兄弟)

←2005年に飛行した三号機の飛行写真。

 しかし・・・

 ライト兄弟の成功を“別の方面”に活用できないかと考えた人々がいるのです。

“それは飛行機。それは車両。そして砲艦でもある。”

 第一次世界大戦末期、シカゴに住むロンゴバルディは、とてつもないものを考案しました。

 1918年に彼が米国特許商標庁に特許申請した『組合せ車両』は、3門の対空兵器を搭載した砲艦でありながら、陸上を走行することもでき、そして空も飛べるというとてつもないシロモノでした。

組合せ車両

組合せ車両
Combination Vehicle

(by Felix Longobardi)

 このアンバランスな翼の設計を見る限り、とても空中に浮くとは信じられません。

 ところがどっこい、1918年12月3日、このロンゴバルディの『組合せ車両』は特許を与えられるのです。

 ただし・・・

 この機体が宙に浮く姿は、誰ひとり目にすることができませんでしたけれど・・・。

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2 車が空を飛ぶ

“自動車+飛行機=コンベアカー”

 セオドア・P・ホールが設計した空飛ぶ車『コンベアカー118型は、その名の通り、4人乗りセダン車の上にそのまま飛行機を接続して持ち上げるものでした。

 1947年11月1日に行われたテスト飛行では、見事に宙に浮きました。

コンベアカー118型

(by Theodore P. Hall)

 でも、残念なことに、その後の燃料漏れによる墜落事故によって商品化の望みが絶たれ、実用化には至りませんでした。

“空あるいは高速道路の移動を目的とし、大規模な潜在市場にアピールできる低価格”

 コンベアカーの後にも、あるいはそれと前後して多くの“空飛ぶ車”が考案されては消えて行きました。

 しかし、いよいよ真打登場!

 1952年にタイラーが特許出願した『エアロカー』は、基本的な姿勢が違っていました。

 製作当初から、実用化を強く念頭に置いた設計思想を持っていたのです。

エアロカー

エアロカー(by Moulton B. Taylor)

道路走行時は翼を外してこんな姿に↓

 そもそも車の上に飛行翼を付けただけでは、現実の道路を走行するのは不可能です。

 地上走行時に翼が邪魔にならないよう、何らかの対策が必要だったのです。

 タイラーは、“取り外しが効く翼”にすることでこの問題を解決し、販売までこぎつけました。

 そして、この『エアロカー』は、「ダイヤルMを廻せ」などの俳優ロバート・カミングスに愛用されることで、いっきに注目を浴びることになりました。

エアロカー

ダイヤルMを廻せ

(ロバート・カミングス(中央))

←右は主演のグレース・ケリー

 『エアロカー』は、高速道路を時速60マイルで走行し、空中を時速150マイルで飛行することができました。

 特許を得て、1956年に五機が製作され、少なくともうち一機~コロラド州のエド・スウィーニーが所有する『エアロカー』は今も現役です。

 スウィーニーがこれを21年前に購入した時点で、15万ドルであったと言われています。

 何はともあれ、こうして“空飛ぶ車”は現実のものになりましたが、誰もが気軽に使えるというわけにはいきませんでした。

 そうして・・・2009年。

 ここへ来て、“空飛ぶ車”の歴史は新たなエポックを迎えそうなのです。

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3 通勤飛行機

 こうした研究に俄然注目が集まりだしたのは、昨年11月12日にアメリカ国防総省の中に設置されている国防高等研究計画庁(DARPA)が『個人用飛行車両技術プロジェクト』を発表したからでしょう。

 プロジェクトが成果目標としているのは、“道路を1分間走行するだけでヘリコプターのように離陸できる定員2~4人の乗り物”です。

DARPAの空陸両用車両

DARPAの空陸両用車両

(イメージ図)

 一方、『エアロカー』の成功以降、それぞれのポリシーで実用型“空飛ぶ車”の研究を進めてきた民間企業の開発スピードは、政府のそれを遥かに上回っていたのです。

 オランダのPAL-Vヨーロッパ社は、3輪で地上走行し、回転翼を出してジャイロコプターのように空を飛ぶ『PAL-V』を製作。

 カナダのモーラー・インターナショナル社では、何と『一人乗りの空飛ぶ円盤』のテスト飛行にも成功していました。

 イスラエルのアーバン・エアロノーティックス社にいたっては“翼を持たない空飛ぶ自動車”が間もなく実現できると主張しています。

PAL-V

PAL-V

(by PAL-V Europe社)

 でも、何といっても本命は、マサチューセッツ州ウォーバーンにあるテラフージア社(Terrafugia)の通勤飛行機『トランジション』でしょう。

 この会社は、マサチューセッツ工科大学を卒業した5人のパイロットが設立した企業で、“Terrafugia”という社名はラテン語の「escape from land(大地からの脱出)」に由来します。

 『トランジション』は陸空両用車で、空港で離着陸し、道路も走れるように設計されています。

 飛行時は時速115マイルで連続724キロメートルの飛行が可能、地上では高速道路の速度(104km/h、燃費12.7km/リットル)で走行できるのです。

PAL-V

通勤飛行機トランジション

(by Terrafugia社)

 『トランジション』が画期的だったのは、トランスフォームの所要時間です。

 ロバート・カミングス御用達の『エアロカー』は、飛行時に“わざわざ翼を取り付けなければならない”という決定的な欠点がありました。

 この点、『トランジション』は、“自動で翼を折りたたんで格納する”ことができるのです。

 トランスフォームの所要時間は、わずか30秒。

 一般家庭のガレージにそのまま収まり、燃料も普通のガソリンスタンドで給油すれば事足ります。

給油中のトランジション

給油中のトランジション

(by Terrafugia社)

 実に画期的。

 飛行用に(※米国の場合)スポーツ飛行機の免許を取得するだけで、誰でも操縦が可能なのです。

 来春発売予定で、気になるお値段は一機あたり19万4千ドル。

 あらららら、まさに“通勤飛行機”のキャッチコピーのとおり、お手軽値段ではありませんか。

 一家に一台・・・お宅もいかがでしょう?

 

/// end of theEpisode37「空飛ぶ車」” ///

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《追伸》

 『一人乗りの空飛ぶ円盤』を開発しているモーラー・インターナショナル社では、2012年に通常の車型“空飛ぶ車”である『スカイカー』の発売を決めました。

 ただし、どうやらこれは“空専用”のようですので、ここでは取り上げませんでした。

 (右の写真)⇒

 しかし待てよ・・・

 みんなが『トランジション』で空を飛び始めたら、“空の交通事故”が多発するんじゃないか?

 そもそも、現在の日本の国内法では運用可能なんだろうか?

 微妙な余韻を残しつつ・・・

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

一人乗り空飛ぶ円盤

一人乗り空飛ぶ円盤

(by Moller International社)

 

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To be continued⇒ “Episode38 coming soon!

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