Nano
Art
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
最初にご覧いれたいのは、メキシコのチワワ州南部にある「夢の洞窟」です。
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「夢の洞窟(Nica鉱山)」(メキシコのチワワ州)
←巨大な結晶のある洞窟。 |
信じがたい大きさの“透石膏”の結晶に埋め尽くされている洞窟で、最大のものは高さが約15メートル、直径約1.2メートルもあるそうです。
洞窟の中で光を点せば、その反射で洞窟全体が金色に輝いて見えるそうで、2000年にここを発見したサンチェス兄弟は、さぞや度肝を抜かれたことでしょう。
こんなふうに、結晶と言うものは、条件さえ整えば大きく成長するもののようです。
出典>>
http://www.canyonsworldwide.com/crystals/mainframe3.html
さて、結晶と言えば、馴染み深いのが“雪の結晶”です。
下の写真をご覧ください。
何と立体的な形をしているのでしょう。
我々が教科書などで見た雪の結晶とは、かなり違います。
実は、通常写されている写真は、六角形の結晶を真上から見たものです。
これは、低温走査型電子顕微鏡というハイテク顕微鏡で撮影されたもので、雪の結晶を立体のまま見ることができるようになったのです。
←(もちろん、平面的な六角形の結晶も存在します。)
このように、科学技術の進歩によって、我々人類は宇宙の深遠ばかりでなく、どんどん小さな世界を覗き見ることもできるようになりました。
ところが、こうした微小世界に着目したのは、科学者ばかりではありませんでした。
ということで、今回のanother
world.は、微小世界をキャンバスに見立てたアーティストたちの話です。
1 マイクロ・アート
まず最初は、とても小さな彫刻のお話。
“マイクロ・ミニチュアアートの巨匠”と呼ばれるウィラード・ウィガンの作品をいくつかご覧ください。
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釘の頭で“考える人”
(by
ウィラード・ウィガン) |
ほーらね、釘の頭のこんな小さな場所にロダンの「考える人」が。
とっても驚きですね。
いったいどんな風にして創作したのでしょうか。
そして、お次が・・・
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鉛筆の芯に彫った彫刻
(by
ウィラード・ウィガン) |
何と、鉛筆の芯に彫ったらしい精緻な彫刻です。
4本の足で支えている部分の技巧など、まさにファンタスティック!
そして・・・
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ピン先のタイタニック
(by
ウィラード・ウィガン) |
ピンの先に、あのタイタニック号が載っています。
その周りは・・・波を表しているのでしょうか。
さらに、今度は針の穴の中に・・・
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針の穴の“最後の晩餐”
(by
ウィラード・ウィガン) |
何とも小さな“最後の晩餐”です。
ウィラード・ウィガンは英国バーミンガムの出身で1957年生まれ。
米や砂粒などを手術用のメスで超ミニチュア彫刻を創造する失読症のアーティストです。
指先がぶれないように、心臓の鼓動と鼓動の間にメスを使うため、一つの作品を仕上げるのに数ヶ月を要することもあるとか。
そして、極めつけは、次の「針先に建てられたロイド・ビル」。
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針先に建てられたロイド・ビル
(by
ウィラード・ウィガン)
←英国ネットデイリー・メールの記事から。 |
これは、有名なロンドンのロイド・ビルの超ミニチュア模型をホワイト・ゴールドとプラチナを用いて、本物そっくりの縮尺で再現したもの。
オークションに出展されると9.4万ポンド(約18.8万ドル)の売値がつき、不動産面積で換算すれば、一平方メートル当たり数百億ポンドという世界最高値の不動産物件だそうです。(笑)
こちらが本物のロイド・ビル。
本物そっくりではありませんか!
なお、以下のサイトで詳細が述べられています。
>> http://www.willard-wigan.com/
2 マイクログラフ・コンテスト
さて、お次は、EIPBN(Electron,
Ion,Photon Beam & Nanofabrication)という電子、イオン、光ビームとナノリソグラフィの国際会議が主催する「マイクログラフ・コンテスト」に出展された顕微鏡写真から。
マイクロやナノレベルの顕微鏡写真の驚くべき造形を競うもので、加工されたもの・偶然に発見されたものと様々ですが、どちらかというと偶然に発見された造形の方が多いようです。
300ナノのスケールが出ています。
よくぞ、このような構造を見つけたものです。(それとも造った??)
次が・・・
おっと、これはきっと“造った”のでしょう。
残念ながら、実際に用を足すわけにはいかないようですが。
そして・・・
これは、まさしくNHKのラジオ体操第二!
思わず笑みがこぼれてしまう写真です。
次は、とっても小さなチェス・・・
どうやって動かせばいいのでしょう?
で、もう一つ・・・
これは不二家のペコちゃんではありますまいか?!
それとも、ドラクエのスライム??
以下のサイトで詳しく紹介されています。
>>
http://www.zyvexlabs.com/EIPBNuG/uGraph.html
なお、上のサイトの「2007
MicroGraph Winners」で動画も含めた多くの画像を見ることができますが、非常に重いページなので、お気を付けあそばせ。
3 微小世界のアーティストたち
いよいよ次は、単なる微小世界のビックリ画像ではなく、明確にアートを意識した作品です。
そのコンテストの名前も“Science
as Art”(芸術としての科学)。
MRS(Material Research Society)という米国の先進材料学会が毎年開催している「電子顕微鏡が捉えた最も美しい画像」のコンテスト入賞作です。
ではまず、最初の写真を・・・。
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Ancient of Days
←左が原画。右がナノ・アートのレプリカ。 |
これは、ウィリア・ブレイクの名画「Ancient of Days」をヘリウム・ビームで多孔質シリコンに描画したシンガポール国立大学テオ氏の作品。まさに芸術。
100マイクロメートルの長さが画中に示してありますので、横幅が約0.5ミリメートルといったところでしょうか。
もちろん顕微鏡でなければ見ることはできません。
次は、一辺が200ミクロンの極小サイコロ。
ジョンズ・ホプキンス大学のレオン氏の作品で、極小サイコロを制作して写真を撮ってからフォト・ショップで彩色したものです。
載せているのは、掌??
そして次は、「赤い惑星」と名付けられた作品。
走査トンネル型電子顕微鏡で撮影した複数の画像を合成して、どこか遥かな異世界の風景を作り出しました。
ノースウエスタン大学からは、次の写真が出展。
これは、シリコンの台座上に形成したナノ・レベルのピラミッド状構造物です。
見事に規則正しく配列されています。
さらに、極めつけがこれ・・・
2007年11月にボストンで開催されたコンテストで、最も話題をさらった「ナノの爆発」という作品。
磁性体ナノワイヤーアレイが電着する様子を撮影したもので、本当に爆発が起こっているように見えませんか?
>> http://www.mrs.org/s_mrs/doc.asp?CID=1803&DID=171434
このような作品達に出会うと、科学と芸術の境界線というものが非常にあいまいになってきているのを感じます。
微小アートという分野に先鞭をつけたのはウィラード・ウィガンかもしれませんが、今や、電子顕微鏡を覗いていた科学者たちが、あるとき一瞬のひらめきとともに芸術家としての才能を開花させているのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチの例を待つまでもなく、もともと、科学と芸術というものは、それほど距離のある分野ではなかったのかもしれません。
4 Nikon Small World
最後にご紹介するのが、米国Nikon社のWebギャラリーで公開されている微小世界のアート写真です。
これはもう、解説が必要ないほどの美しい写真たちです。
ということで、写真と原題のみ・・・
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Crystalized solgel chemical
(Nikon Small
World) |
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Liesegang rings obtained
by
reacting silver
and dichromate ions
(Nikon Small
World) |
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Testudinella patina
(Nikon Small
World) |
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Marine diatoms attached
to Polysiphonia
(Nikon Small
World) |
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Nematic liquid crystal confined
to a TEM grid
(Nikon Small
World) |
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Cedrus Atlantica (cedar)
leaf crosscut
(Nikon Small
World) |
以下のサイトで、スライドショーや拡大画像も見ることが出来ます。
>>
http://www.nikonsmallworld.com/gallery.php
どうでしたでしょう? 顕微鏡で見なければ見えないナノ・アートの世界・・・。
科学技術の進歩と芸術が出会ったことで生み出された“奇跡の世界”ではないでしょうか?
そう言えば、寺田虎彦は随筆「科学と文学」の中で次のようなことを言っています。
“手近な例を取ってみても、ファーブルの昆虫記(こんちゅうき)や、チンダルの氷河記を読む人は、その内容が科学であると同時に芸術であることを感得するであろう。
ダーウィンの「種の始源」はたしかに一つの文学でもある。ウェーゲナーの「大陸移動論」は下手(へた)の小説よりは、たしかに芸術的である。
そうしてまた、ある特別な科学国の「国語」の読める人にとっては、アインシュタインの相対性原理の論文でも、ブロイーの波動力学の論文でも、それを読んで一種無上の美しさを感じる人があるのをとがめるわけにはゆかないであろうと思う。”
そして、このように結んでいます。
“真なるものを把握(はあく)することの喜びには、別に変わりはないであろう。”と・・。
科学と芸術・・・もしかするとこの二つは、同じ真実を探求するための別々のアプローチなのかもしれません。
/// end of the “Episode29「ナノ・アートの世界」”
///
《追伸》
A.I.ミラーは、その著「アインシュタイン、ピカソ」の中で、ピカソが人間の顔を同時にいくつもの視点から描いたきっかけは、アインシュタインの相対性理論に触発されたからではないかと考察しています。
相対性理論では、時間と空間のエネルギーはお互いに転化することができると論じていますが、ピカソの場合には、人の顔を別な方向から見るための時間を転化させ、同じ空間上(ここではキャンバス)に表現したというわけです。
そう言えば、アインシュタインが特殊相対性理論を発表したのが1905年で、ピカソが多視点の肖像画「アビニョンの女たち」を描いたのがその二年後のことでした。
こんなところでも、既に、“科学と芸術”は出会っていたのかもしれません。
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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蛙の胚
(写真:ミハエル・クリムコフスキー)
Nikon Small
World |
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