The Legend of Pleiades
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
昴(プレアデス星団)は、地球から400光年の位置にある若い散開星団です。
昴は、日本でも古くから親しまれている星座で、清少納言の枕草子にも「星はすばる。ひこぼし。ゆふづつ(宵の明星)。よばひ星(流星)、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。」とあります。
昴が登場する最も古い記録は平安時代の『倭名類聚抄』で、この中には「須八流(すばる)」と記載されています。
「すばる」は、“統一されて一団となっている”という意味の和語です。
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散開星団“昴” |
でも、一般には肉眼で六つの星が見えることから「六連星(むつらぼし)」と呼ばれれていました。
アイヌの「イワンリコップ(六つの星)」という民話では、6人の怠け娘が神の怒りに触れて寒い冬の空に上げられたものとされています。
このように、昴と言えば六つの星…
ところが! 奇妙なことに、古代では七つの星が見えていたらしいのです。
アッシリア帝国の粘土板には、はっきりと七つの星が刻まれていました。また、古代中国でも「昴宿七星(ぼうしゅくしちせい)」と呼ばれていたのです。
では何故、一つの星が忽然と消え去ったのでしょう?
昴、こと“プレアデス星団”は、星間ガスの白い雲で覆われています。
このガス帯は、実はずっと手前にあるのです。
ガスの濃度が何らかの原因で変化し、星の一つを隠してしまったのでしょうか。
それとも、星の寿命が終わり、超新星爆発(スーパーノヴァ)で消滅してしまったのでしょうか。
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超新星爆発の残骸(カシオペア座) |
いずれにしても星の一つが失われ、同時に一つの神話が誕生しました。
そして、その神話は、形を変えながら世界中で伝承されています。
古代、ある民族が生み出した一つの神話が地上にあまねく広がった物語…。
ということで、今回のanother world.は「昴(すばる)」にまつわるミステリーです。
1 白鳥処女説話
ギリシャ神話に出てくるプレアデス七姉妹は、天空を支える巨人アトラスと妖精プレイオネの娘たちで、月の処女神アルテミスの侍女たちであったとされています。
つまり、古代ギリシャでも元は「七つの星」と認識されていたのです。
そして、そこに登場するのが、海神ポセイドンの息子である乱暴者の猟師オリオンです。
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猟師オリオン |
【オリオンとプレアデス七姉妹の神話】
オリオンは、シリウスという猟犬を連れて狩をしていましたが、ある日森の中で美しいプレアデス姉妹たちと遭遇します。
オリオンは彼女たちを見初め、追いかけて捕えようとしますが、これを見た大地母神ガイアが七姉妹を鳩に変えて逃がし、そのまま天空の星としました。
また、オリオンにはサソリを使って毒針で刺し殺させたのです。
その後、七姉妹の一人は、人間に恋をして地上に堕ちてしまいますが、今でも天空では、シリウスを従えたオリオンが六姉妹(プレアデス星団)を追いかけ、その背後からはさそり座がオリオンを狙っているというのです。
オリオンの死因については、異説のギリシャ神話もあります。
しかし…どうやらこのプレアデス神話は、オリジナルではないようです。
これより遥かに古く、中央アジア付近に起源を持つ「白鳥処女説話」があるからです。
【白鳥処女説話】
森の泉に七羽の白鳥が舞い降り、そこで羽衣を脱ぎ捨てると美しい娘たちに変身し、水浴びをはじめました。
それを森の中から見ていた若い猟師は、娘たちの美しさに惹かれ、一枚の羽衣を隠してしまいます。
六人の娘は再び白鳥に化身して天空に飛び去り、裸で取り残された娘は仕方なく猟師と結婚して地上にとどまることになりました。
さて、この話は何かに似ていないでしょうか?
日本の羽衣伝説とそっくりではありませんか。
そうなのです。
プレアデス神話も羽衣伝説も、白鳥処女説話のバリエーションに過ぎません。
同様な話は、ヨーロッパやロシア、中国、インド、太平洋の島々から北米のインディアンにまで伝承されています。
では何故、この神話が世界中に広まったのでしょう?
「羽衣伝説」は、別名「天人女房」とも呼ばれています。
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三保の松原(羽衣伝説の代表的な場所:日本三景) |
これを知るためには、神話を最初に生み出した民族ヒッタイトについて知らねばなりません。
2 隕鉄剣
ヒッタイトといえば、青銅器しか持たなかった人類に、最初に鉄器文明をもたらした民族として有名です。
彼らは、紀元前1700年頃、中央アジアからトルコ地方に侵入して古代オリエントに覇を唱えました。
彼らの宗教は、七大天使信仰や堕天使神話を持つ古代ミトラ教です。
ミトラ教は、現代でも世界各国で信仰されており、日本にも「ミトラ教天使七星教会」が存在します。
天使になぞらえた七つ星…そこに昴の風景が浮かび上がります。
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ハットゥシャ(ヒッタイト王国の首都遺跡) |
ヒッタイトと“鉄”は、どうやって出会ったのでしょう?
鉄はもともと金属としては地上に存在しないため、彼らが作った最初の鉄剣は隕鉄が原料でした。
隕鉄…すなわち、宇宙からやって来た鉄の隕石です。
残されている隕鉄剣は紀元前2300年頃のもので、柄と鞘が黄金、刀身が鉄製であるため、「ヒッタイト黄金装隕鉄剣」と呼ばれています。
また、エジプトのツタンカーメンの王墓から出土した刀剣も紀元前1400年以前に鍛造された隕鉄製でした。
実は、この日本にも隕鉄剣が存在します。
三種の神器のひとつ、天叢雲(アメノムラクモ)の剣が隕鉄製であったという説もありますが、確実なところでは、明治31年に農商務大臣であった榎本武揚が時の皇太子(大正天皇)に献上した「流星刀」が有名です。
近年では、平成6年に国立歴史民族博物館の田口勇教授が、ギボン隕石を用いて刀匠法華三郎に日本刀の鍛造を依頼し、成功しました。
これは、「天降劔(あふりのつるぎ)」と名付けられました。
(天降劔
余談ですが、古代の剣が隕鉄製であることがわかるのは、ウィドマンシュテッテン模様と呼ばれる特有の金属組織が見られるからだそうです。
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天降劔(あふりのつるぎ)
隕鉄ならではの不思議な刃文様が浮き出ている。 |
隕鉄の成分である鉄・ニッケル合金でウィドマンシュテッテン模様が出来るには、最低700度の温度から100万年に1度ずつという気の遠くなる時間をかけて冷却する必要があって、地上で作ることは不可能なのです。
計算すれば、最低7億年もかかってウィドマンシュテッテン組織ができたことに!
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ウィドマンシュテッテン組織(7億年かけてできた結晶構造) |
このような貴重な隕鉄ですから、ヒッタイトの初期の剣は実用ではなく、もっぱら祭礼用でした。
しかしやがて、地上の鉄鉱石などを原料として武器を量産するに至り、ヒッタイトは鉄器武器を有する無敵軍団としてオリエントに君臨するのです。
ところが!
紀元前1200年頃、不敗のヒッタイト王国は突如として歴史から姿を消しました。謎の「海の民」の侵攻を受けて滅亡したとも言われますが、事実は定かではありません。
ただし、鉄器文明がその後全世界に広がったのは誰もが知るところです。
鉄器を作り出す技術を持った鍛冶職人(タタラ)たちを、各国が放って置くはずはありませんでした。
さて…昴と白鳥処女説話、鉄器とタタラ、そして説話に登場する白鳥との関係は如何に?
3 神話は白鳥の翼に乗って海を渡る
3000年以上も前、天空の昴の一つが何らかの理由で姿を消しました。
中央アジアにいたヒッタイト民族もまた、その事に気づいたに違いありません。
彼らにとっては、とてもショッキングな出来事だったでしょう。
何故なら、彼らの信仰するミトラ教の七大天使は天空の七つ星に見立てたものでしたから。
ところが…時を同じくして一つの奇跡が起きたのです。
消えた七番目の星が火の玉となって地上に堕ちてきたのです。
~彼らはそう信じたのです。
そして、その灼熱の中から、これまで見たこともない固い金属を発見しました。
こうして彼らは鉄を手に入れ、同時に「白鳥処女説話」が誕生したのです。
鉄器を武器にオリエント世界に侵攻し、一度は覇を唱えながら、やがて突然の滅亡…ヒッタイトの鍛冶職人(タタラ)たちは各国に召抱えられ、原料となる鉄鉱石や砂鉄を求める旅を初めました。
一派はギリシャ・ローマへ、他の一派はドイツからヨーロッパ全域へ、そして北方ルートのロシアを経由して極東、北米へ、南方ルートをたどった者たちは、インドから中国、東南アジア、太平洋地域へと。
彼らと共に、「白鳥処女説話」もまた形を変えながら伝播して行きました。
ロシアから東方への「北方ルート」では7羽の白鳥として、そして、白鳥の存在しないインドから太平洋に至る「南方ルート」では、7人の海女や天女に姿を変えながら…。
やがて紀元前4世紀。遂に神話と鉄器文明は縄文時代末期の日本へと到達し、「羽衣伝説」となるのです。
ヒッタイトの「昴の神話」が誕生してから実に2000年の歳月が流れました。
そして、最後の「白鳥」の謎です。
鍛冶職人(タタラ)が鉄鉱石を求めて歩んだ道のりは、不思議なことに白鳥の生息地と一致しているのです。(北方ルートの場合)
この奇妙な符合の理由については判っていません。
しかし、一つだけ手がかりがあります。
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白鳥の渡り |
白鳥は渡りの方角を知るのに“地磁気”を感じる器官があるのではないかと言われています。
地磁気…それは、「鉄」の在り処で微妙にゆらぎを見せます。つまり、白鳥は鉄の存在を道しるべとしながら渡りを行っている可能性があるのです。
むしろ鍛冶職人(タタラ)は、白鳥の渡りをたどって鉄を探したのではないでしょうか?
だからこそ、神話の主人公は白鳥でなければならなかったのでしょう。
そう…ヒッタイトの“昴の神話”は白鳥の翼に乗って世界の海を渡ったのです。
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end of the “Episode26「昴(すばる)ミステリー」”
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《追伸》
古事記の「ヤマトタケル」は大和朝廷から派遣された征討軍の総称であったと言われていますが、山野を移動するこの集団の守り神は白鳥でした。
もしかすると、征討軍の目的そのものが富国強兵のために「鉄」を手に入れる旅だったのかもしれません。
また、オオクニヌシが神々に国を譲ったといわれる出雲は刀剣鍛造に最適な砂鉄の産地で、スサノオがヤマタノオロチを倒し、その尾から天叢雲(アメノムラクモ)を手に入れたのもこの場所です。
古代において、鉄の剣を持つことは戦略上重要課題であったことがうかがえます。
天空の昴(プレアデス星団)は、急激な速度で核融合反応を行っているために非常に明るく輝いていますが、あと数千万年もすれば、全て燃え尽きて見えなくなってしまうのだそうです。
その時に、我々人類はどうなっているのでしょうか?
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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すばる望遠鏡(ハワイ島) |
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