◆17歳の時に心を壊した。3歳から弾き続けてきたクラシックヴァイオリンと決別するか否か、すなわち東京芸大を受験するか諦めるかの瀬戸際の、高校二年生の秋から冬にかけてのおよそ半年間のことだ。
◆医者に行く、という発想は思考のどこにも存在せず、当時の僕のうつ状態や、不眠状態なんぞ、世間的には「ノイローゼ気味」と笑い飛ばすような時代であったことは、それ以上に僕を追い詰めないでいてくれたと感謝している。
◆僕は眠れぬ夜を過ごすために、毎晩大きな模造紙をこたつの上に拡げて、シャープペンシルで毎日の不平や不満や悩み事や恐怖心を箇条書きにした。
◆やがて、自然に解消してしまう悩みや、解決できる悩みがあることにも気づいて、書き連ねた項目を「解決済み」「解決可能」「解決不可能」の三つに分けてみた。
◆すると驚いたことに「解決不可能」に残ったのは「何のために生まれてきたのか」そして「どうやって人生を生きていくか」のたった二つだった。
◆それに気づいた瞬間、たちどころに僕の心は治った。僕は人生の入り口で悩んでいただけなのだ。「なあんだ」と僕は吹き出してしまった。
◆「たかだか17歳の少年に自分が何者だか分かるわけがないじゃないか」それでその日に45歳の自分と約束をした。「45歳までの自分の人生を借りておこう」と。45歳までは自分の出来ることを精一杯逃げずにやろうと、僕は僕から長い時間を借りた。
◆だから45歳までに僕の書いてきた歌は「45歳の僕」への長い長い手紙だった。………(『さだ語録』まえがきにかえて より) |