◆「お母さん、雪の降る夜に私を生んでくださってありがとう。もうすぐ雪ですね。」大阪・天根利徳さん 広く「母」への手紙を募った福井県丸岡町の「一筆啓上賞」入選作の一編だ。
◆この賞は、徳川家康の家臣本多重次が妻に送った有名な手紙「一筆啓上 火の用心」にちなむ。簡明な手紙文という条件に、三万を超す応募があり、十編の入賞が決まった。
◆「絹さやの筋をとっていたら無性に母に会いたくなった。母さんどうしていますか。」東京・中村みどりさん
◆「桔梗がポンと音をたてて咲きました。日傘をさしたお母さんを思い出しました。」京都・谷本英治さん
◆ほんのささいなことで、ふと母を思う。遠い故郷の母、あるいは、すでに亡くなった天国の母。それぞれに、見事な短編小説のようなさわやかで、感動的な読後感がある。
◆「『私、母親似でブス』娘が笑って言うの。私、同じ事泣いて言ったのに。ごめんねお母さん。」群馬・田口信子さんの一見ほほえましい手紙も、そのお母さんは十年前に亡くなっている。
◆千葉・安野栄子さんの手紙は、同じ苦しみを抱える少なからぬ家族で共感の涙を誘うことだろう。「お母さん、もういいよ。病院から、お父さん連れて帰ろう。二人とも死んだら、いや」 |